演奏会などがあり、私のブログとしては約6週間ぶりになります。
当事務所は分譲マンションの修繕や管理運営などのコンサルタントを業務として行っております。
分譲マンションは一つ一つ異なり、どれも同じ、あるいは、同じ手法で業務ができる、ということはありません。これは建築全てに言えるのかもしれません。
依頼者が異なる。特に複数人(管理組合)が依頼者になる。理事会の組み合わせが異なる。敷地が異なる。建物形状が異なる。築年数が異なる。などなど。
たとえ同じ業務(例えば大規模修繕工事のコンサルタント業務)に関する相談であっても、同じ見積をぽんと出す、というわけにはいきません。
最初は管理組合や理事さんから「こんなことに関する見積もりを出して下さい」と言われます。そのようなとき、当事務所では「提案書」を当然作成しますが、そのときは「最小限度」の確定している範囲での提案しかしません。その先はわからないからです。
つまり、「大規模修繕工事をこれから取り組みのだが、その劣化診断・設計・工事監理の見積を欲しい」と言われたとしても、原則として「劣化診断」費用しか出しません。なぜなら、劣化診断をしないとその先の修繕設計や工事監理費がわからないからです。参考費用として、いつ頃この程度の工事を想定するとこの程度の金額、というのは出しますが、確定していない金額だと言うことを必ず添えます。
人間で言うと、検査もしていないのに、治療に要する費用や時間がわからないのと同じなのですが、そういった当事務所の対応も世間的に見れば少数派なんだろうなぁと最近思う出来事がありました。
劣化診断を行ったマンションで、それほど劣化の程度が進んでいなく、慌ててしなくてもいいんじゃないか、という結論に達したマンションがありました。当方としても、今すぐ修繕設計をして大規模修繕をするのではなく、しばらく計画的な小修繕を重ねて適切な時期までつないでいき、その先で足場を組むなどで一気に工事をした方がいいのではないかと理事会でお話しをしました。
事務所の営業的には、黙って次の修繕設計についての契約をして、粛々と大規模修繕工事を行うように進めるのが定石でしょう。一方、管理組合側の立場で考えると、慌てて工事をしなくてもいいのであれば、なるべく修繕周期を延ばすように考えて、適切な時期まで先送りすることはとても大切です。なぜなら、1年でも2年でも修繕時期を延ばすことができれば、2回目の修繕がさらに数年延びることになりますし、それが積み重なると、30~40年で見たマンション全体の修繕に要する費用が節減できるからです。
そんな話をしているときに、理事さんから、「修繕時期もかちっと決めて提案したコンサルタントがありましたね」という話があがりました。そう、当事務所も参加したコンサルタント選定の見積提案の時に、「いつどうしていくらか」という工程表もかっちりと決めてきて費用を出してきたコンサルタントがあったようです。
もしその事務所が今回の業務を受けていたら、粛々と自前の工程表に則って作業を進めて工事を進めたのかはわかりませんが、うちの事務所のスタンスと全く違うなぁと思った事案でした。
管理組合からしたらプロの言うとおりにやったらいいんだろうなぁと漠然と思うでしょうから、プロの言い方一つだと思います。
設計事務所のみならず、ゼネコンや工務店なんかの「ユーザーの立場に立って~」という文言はよく見かけますが、本当に「ユーザーの立場に立つ」のはとても難しいと思う次第です。