小学生が親にほしいものを買ってもらうときに「みんな持っている」といったり、その昔データねつ造問題で放送中止になった「○るあ○大事典」に代表されるような「健康ネタをあつかった販促番組」の「○人中○人に○%の効果がみられました」的な話など、我々の身の回りには「偶然(たまたま)」を「必然」にしたい衝動はしばしばみられる。
統計理論では、サンプルが十分であれば、母集団をほぼ正確に反映していると考える。しかしその「十分なサンプル」がどの程度なのか、専門的な用語でいうと「有意な差」を生じるためのサンプル量をしばしば見失う。
そう。だから、小学生の「みんな持っている」という言葉のサンプル量がいくつなのか、何人に効果のあったサプリメントなのかをあまり明らかにせずに、「必然を装う」のだと思うのですが、そんな「世の中に潜むたまたまを科学してみよう」というのがこの本の目的のようだ。
たまたま―日常に潜む「偶然」を科学する (単行本)
レナード・ムロディナウ (著), 田中 三彦 (翻訳)
# 単行本: 368ページ
# 出版社: ダイヤモンド社 (2009/9/18)
# 言語 日本語
# ISBN-10: 4478004528
# ISBN-13: 978-4478004524
# 発売日: 2009/9/18
正直言うと結構文章は読みにくい。訳者はあとがきで「興味を持って読みやすい」と書いていたと思うが、科学者&英語独特の表現が多々みられて、日本語で読むにはつらい文章も散見された。
しかも、内容が確率統計論を中心に展開しているので、ある程度の基礎的な知識を持っていないと睡眠導入剤になると思う。
でもそこを乗り越えるとなかなかおもしろい、と思える。しかし、私でもこの本を買って1ヶ月読むのにかかった。少しずつしか読めないし、ちょっと読んだら別の本に浮気がしたくなる。
とはいえ、印象的な話はいろいろとある。
医者が典型的な症状が積み重なるほど誤診しやすくなる、とか、日本シリーズのような短期決戦では実力よりも偶然(たまたま)の支配する力の方が大きい、とかヒットする映画も大富豪になった人もたまたまなんだ、とか・・・
もちろん筆者は「世の中、たまたまなんだから、努力しなくてもいい」なんてことをいおうとしていない(と思う)。ただ、人生の中のたまたまを見落とすと、間違った評価をするぞ、という警鐘を鳴らしていると考えた方がいいだろう。コイン投げで20回連続で裏が出たからといって、次に表が出る確率が上がるわけではないし、10年間宝くじに当たっていないから今年当たる確率が上がるわけではない。同じようにここ1年間の営業成績が悪かったからといって、その人が無能であるとかリストラ対象であるといったことは決められない、ということである。
ただ世の中で成功した人を「たまたま」だけでみていても「才能や努力」だけでみていてもうまくいかない。「たまたま」と「才能や努力」をきちんと切り分ける能力が求められるのだろう。
ということまでは、本書に書いているわけではないが、ランダムネスという理論を概念的に考えるには役に立つと思う。
ただ、作者が物理学者であるということもあって、私はもっとがりがりと理系的な本(数式ばりばり!!っと出てくるような本)を期待していただけに、読み物的でちょっと物足りなかったなぁ、という感じがした。
説教じみてなく、教訓的でもなく、数式押しつけているわけでもないので、印象は悪くないが、いかんせん敷居は少し高いかもしれない。