事件は意外と身内から起こるものです。
前々回お話ししましたとおり、卒業設計の公開を私は見に行きました。そこで、当研究室の学生の矩計図(かなばかりず)に目が釘付けになりました。
矩計図とは、建物の断面を詳細に書いた図面です。平面図を非常に書いたのが平面詳細図といいますが、それの断面版だと思って頂いて結構です。通常目的や規模にもよりますが、平面図・断面図は1/200~1/50程度で表現しますが、平面詳細図や矩計図は1/30~1/20でかかれます。縮尺が大きくなっている分、図面の中にいろいろな情報を書き込むことができ、その中に自分が考えたこと、表現したいこと、思い描いた空間などを詰め込むことになります。平面図や断面図は大まかな姿形を伝えるのみですが、詳細図や矩計図は設計者の詳細な意図を伝えることができる図面です。
余談ですが、私は設計者は詳細図や矩計図にすべての思いを書き込むとすら思っていますし、現に私も詳細図や矩計図をもっとも大切にします。
さて、話を大きく元に戻します。私がなぜ学生の図面に釘付けになったか? そう、この書き込みのタイトルにあるように、私の図面をそっくりそのままコピーされた(と思う)からです。コピーといっても、本や印刷されたものを書き写したのではなく、CADのデータをそっくり転載された(と私は信じています)からです。
あまりにもびっくりした私は、すぐさま教室の担当教官に話をあげて、本人から事情を聞きました。本人曰く「図面が落ちていたので、それを写した」ということでしたが、あの図面を見る限りそうは思いません。窓サッシ周辺の納まり方、引出線の位置関係や角度、などおよそ印刷物をCADで書き換えたとは思えないような酷似点がありすぎます。天井や基礎の部分を自分の建物にあわせて変えていますが、天井や基礎の完成度と私の図面をコピーしたと思われる部分の完成度があまりにも違いすぎます。
それ以上追求するのもバカらしくなり、どうでもよくなったので、不問にしましたが、そういうことを平気でやってしまう感覚や意識というのがどうしようもなく信じられないと言う感覚です。これこそまさにコンピューターの弊害、と思いたくなる事件でした。もちろん本人の問題でもあるのですが。
不問にはしましたが、今でも許しているわけではありません。
話を少しマクロにすると、これは将来にわたってコンピューターを使う以上、考えられる問題です。前回・前々回でも書きましたが、手で書いていた頃は、自分で理解して、わからないところは少し解決を図って、それでもわからないところはまる写しと言うこともありますが、そうして図面を書いていました。しかし、コピー&貼り付け、が簡単にできるコンピューターでは理解してようがして無かろうが、”作品”としての体裁を整えることができるのです。そんなものは決して”作品”とは言えません。他人の図面を丸写し(それもコピー&貼り付けで)し、卒業設計の単位をもらったところで何の価値を生むでしょうか。そんな考えを教育して、卒業させることが大学の目的だとは思えません。
何とも情けない限りです。
最後に、なぜ私が大学の研究室に図面が落ちているか、その学生はどうやって図面のデータを手に入れたか、について疑問に思われる方がおられるかもしれませんので、念のため書き記しておきます。
図面データは研究室の学生たちがアルバイトで書いてくれたり、現場に行ったり、実測などをするときに印刷したりしてますので、割とわかりやすいところに落ちていたりデータを簡単に入手したりできます。しかし、それを自分の卒業設計でコピー&貼り付けされることは想定していませんでした。私の読みが甘かったと言えば甘かったと言うことになるのでしょうか?
笑い話なのか、深刻な事態なのか。10年後・20年後に差が出てくるように思います。