このホームページの最初に「”依頼者の権利を守る”事が私たちの務めです。」と書いています。
当事務所と当事務所のスタッフは基本的に「依頼者にとってよい相談者であること」「依頼者のガイドであること」をスタンスとして業務を行ってきております。そう思い事務所を立ち上げてから早いもので、もう9年になります。曲がりなりにもそうやってやってこれました。これから先もできるかどうかはわかりません。しかし、このスタンスが社会から受け入れられなくなったら、それは社会が必要としなくなったと言うことを意味すると思っていますので、やめてしまうかもしれません。スタンスを変えてまで仕事や事務所を継続させようとは思っていません。
これまでも「設計事務所とは何か?」についていろいろと書いてきました。事務所のスタンスについても書いております。
■結局「設計事務所」って何をするところなのですか?その2
■先生とよばないで2003-12-1
■お客さんの権利を守る 003-12-22
■徒党を組むべからず2004-1-12
主に古い記事、事務所を立ち上げた頃に書いていた記事をまとめてみましたが、今も当時も何ら変わっていません。
ある意味、変わった事務所かもしれません。
アンケートなどで職業を聞かれると迷わず「サービス業」と答えています。かいつまんで言うと私たち設計事務所の仕事はサービス業です。依頼者に満足してもらう、納得してもらうことが「設計監理料」の対価である、と考えています。
さて、バブルが崩壊して20年、建築業界に激震が走った耐震偽装事件から7年、リーマンショックから4年。設計事務所と設計事務所を取り巻く環境は大きく変わりました。
瑕疵担保保険などの建物にまつわる法整備も少しずつ整い、よい方向もあります。が、ゼネコンや工務店に余裕が無くなっていく一方で、建築主・依頼者の要望も高くなる。確認申請などの手続きでの書類や図面の点数はどんどん増える一方で、設計料が上がらず、競合事務所が増えていく。設計事務所を取り巻く環境は厳しくなっています。
厳しくなっているからこそ、原点に戻るべきだ、と思うわけですが、なまじバブルの頃おいしい思いをしただけに「原点」を忘れてしまっているのではないかと思います。そんな出来事が最近続きました。
最近は、紛争やトラブルの相談でも、本来第三者、建築主から直接委託されている「設計監理者」が存在するケースが増えてきました。一昔前なら、設計施工であったり、設計図もろくにない建物であったりで、トラブルが生じていることが多く、「設計監理者をちゃんと依頼するべきだ」と言えばよかったのですが、最近はそうではないのです。それが大きな問題なのです。
設計事務所は本来建築主と施工者の間に立って、建築主の希望や考えをかなえるためにあり、施工者に設計図で表現したことをきちんと伝えるために存在するべきものです。
ところが実態はそうではなく、ゼネコンの見方をしたり、依頼者の利益を守るどころか不利益になるようなことを平気でしたりします。
しつこいようですが、設計事務所が売り物にできるのは、サービスです。建築主・依頼者の代弁者となって現場に伝えること、現場が建築主が思うとおりに進んでいるかを確認すること、です。当たり前ですが、「信頼関係」が無ければ成り立たない、むしろ「信頼関係」だけで成り立っています。その信頼関係を設計事務所自らが破壊し、漫然としている。むしろ悪気すらない、という態度に驚きます。
なぜ独立した設計事務所が存在するのにトラブルになるのか?
一つは、前述の通り、施工者に余裕が無くなったからだと思います。以前は、設計事務所の不手際やミスは現場でゼネコンが尻ぬぐいができました。施工者としても面倒な施主対応は設計事務所にさせることができたり、うまく設計事務所を踊らせておくと次の仕事を回してもらえるので、ある種のギブアンドテイクが成り立っていました。しかし、コストが厳しくなり、現場代理人の裁量範囲が小さくなり、設計事務所のミスまでカバーできなくなったことで、トラブル化してきたのではないかと考えます。
もう一つは建築主も多様化してきたことがあるのでしょう。情報があふれ、現場の不具合に気づきやすくなったと言うこともあるでしょう。もちろん、素人の思い過ごしであることも多々あるかと思います。それでもそう思わせてしまう設計事務所の説明不足があると考えます。
時代が流れゼネコンも建築主も変わり、設計事務所だけがその時代の変化に取り残され旧態依然としたスタイルで仕事をしようとしていることが最大の問題だと考えます。
設計なんて所詮白い紙に鉛筆で落書きするだけのことです。ただ、その落書きを生み出すためには大変な労力を費やします。そして何より、建築主と絶対的な信頼関係がないと絵すら描けません。
だからこそ、本来の設計事務所の役割、を守っていきたい、そんな設計事務所でありたいと考えています。