木を見て森を見ず

「屋根から雨が漏れてきた」「基礎に亀裂が入った。」こんなことから、相談に乗ることがよくあります。「ちょっとトイレが使いにくい。」「キッチンを変えたい。」こんなことからリフォームの相談に乗ることがよくあります。

「(我々のような)設計者にこの程度のことを相談していいんだろうか。」と多くの人が考えているようです。しかし、上記の一つの現象に関して、ゆっくり相談に乗って、現場調査をすると、実は「建物の構造に問題があっていえ全体が傾いてきている。それが故に屋根がずれて雨が漏れている。」といったこともよくあります。

「雨が漏れれば屋根屋に言って、屋根を直してもらったらいいじゃないか。」「亀裂が入れば、近くや知り合いの工務店に頼んで、亀裂を補修したらいいじゃないか。」と考えることは、表面上の問題を解決することができても、その根本にある要因まで解決することはできません。もちろん、建物に全く問題がなく単に屋根がずれただけ、ということもあるでしょう。それはそれでいいじゃないですか。「のどが痛い」と思って、病院に行って風邪だと言われれば安心だし、ガンですと言われればのど飴では困るでしょう。

リフォームの相談もたいていそうです。最初はトイレに不満を持っていて、それだけ直せば自分の家は良くなると信じている人が多くいます。建築の専門的知識がなければそう思ってしまうのも無理がないでしょう。しかし、よくよく話を聞いてみると、トイレを不満に思っているということはほんの氷山の一角で、その他不満や変えたいことを漠然と思っている(時には気づいていない)ことが多いのです。

また、トイレに不満を持っている人がリフォーム業者に工事を依頼するときは、トイレしか依頼しないでしょう。リフォーム業者もトイレしか頼まれていないわけですから、それ以外に不具合や改善点があったとしても、自ら仕事を増やすようなことはしません。それは業者の姿勢としては決して間違っていません。

だからこそ、設計者にちょっと聞いてみる。ということが大切になるんだと思います。

しかし、その設計者の中にも「木を見て森を見ない」人が多くいます。そういう人はたいていそこまで気が回らない設計者か、自分のスタイルを強要する設計者かいずれかです。私にはどちらもお客さんにとっては無能だと思います。

「木も見て、森も見てくれる」のが本来の設計者の職能だと思います。