彗星物語(上)(下)

一昔前まで「好きな作家は誰ですか?」と聞かれたら宮本輝と言っていました。(ちなみに今は「小川洋子」が追加されています。)

好きな作家とは言いながらも、すべての作品を読んだわけではなく、ほぼメジャーな作品はすべて読んだ、という程度です。
私の好んで読む本は、比較的純文学や小説よりもドキュメンタリーが多い上に、小説読んでもなかなかブログにアップしようと思わないので・・・

彗星物語 (文春文庫) (文庫)
宮本 輝 (著)

# 文庫: 427ページ

# 出版社: 文藝春秋 (1998/07)

# ISBN-10: 4167348136

物語は、兵庫県伊丹のある一家にハンガリーからの留学生がやってくるところから始まる。夫婦と子供4人・舅に離婚した夫の妹+子供4人に犬1匹に留学生と、総勢十三人と犬一匹の大家族物語。泣き、笑い、とまどい、衝突、愛憎・・・様々な感情が織り交ぜられ家族とは何か、絆とは何かを、丁寧に紡ぎ上げている作品。

というのが、本の内容。

冒頭に書いたとおり、宮本輝の作品は結構好きだ。非常に丁寧に描写されていることと登場人物や風景がすっとイメージできること、それぞれのシーンに共感できること、等が文字で書ける「好きな理由」だろう。

ところで、ここに登場する家族は先に書いた13人+1匹である。非常に複雑な関係で、加えて夫の妹の元旦那や留学生の友人、妻の弟、などの人物が登場する。

私にとって風景がイメージできるというのは非常に大切な要素で、設計をしているときもまさにその「イメージ」ができるかどうかが設計を左右していると言ってもおかしくない。
この建物を誰が使っているんだろうか、どのように使っているのだろうか、どう変化していくのだろうか、などをイメージできるときは非常に設計は早い。それがイメージできなかったり、何らかの引っかかりがあったりすると、全く筆が進まない、という状態になる。小説は全て作者が勝手に作り上げていけばいいのだが、設計は目の前に依頼者がいる。その依頼者がこれらの建物をどう使うのかが頭の中に入らないとどうも難しい。

もう一つ。宮本輝の作品はおおざっぱな切り口を見せながらも、非常に繊細に細かいところが詰められている。これも私が好きなところであり、私の設計スタイルと共感するところがある。事務所のこれまでの事例を見てもらったらわかると思うが、ぱっと見ておもしろいとか大胆なフォルムというのは無い(と思う)。ただ、一つ一つじっくり見ているとおもしろい形や気の利いた窓の設置、プラン等をしていると思っている。だから、ぱっと見てもおもしろくはないが、長く見ても飽きない、という設計になっているのではないかと、自分では分析している。

そんな風に宮本輝と自分を重ね合わせているが、言うまでもなく、おこがましいことである :hammer: ←「こらこら」というつっこみ