著者から頂いた本、三冊 一気にレビュー

 今年はどういう訳か私の身の回りで出版ラッシュらしく、親交のある知人がそれぞれの立場や見方から本を出されました。ありがたいことに、私などにもその著書を頂き、事務所のホームページにて紹介させて頂く、という形で何とかそのお気持ちにお答えさせて頂きたいと思いこのページをしたためております。

 頂いた順に、すなわち出版された順で、ご紹介していきます。3月の出版で10月に紹介とは何事ぞ、とお怒りにならないことを祈りながら・・・。すみません、7ヶ月もレビューが遅れました。

住まいづくりのウソ?ホント?: 主婦建築家と考える [単行本]
井上 まるみ (著)
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 単行本: 184ページ
 出版社: 学芸出版社 (2013/3/1)
 言語 日本語
 ISBN-10: 4761513217
 ISBN-13: 978-4761513214
 発売日: 2013/3/1

著作権で迷った時に開く本 Q&A イラストレーターのための法律相談 [単行本]
藤原 唯人 (著)
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 単行本: 212ページ
 出版社: カナリア書房 (2013/3/8)
 ISBN-10: 477820249X
 ISBN-13: 978-4778202491
 発売日: 2013/3/8

写真マンガでわかる 住宅メンテナンスのツボ [単行本]
玉水 新吾 (著), 都甲 栄充 (著), 阪野 真樹子 (イラスト)
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 単行本: 248ページ
 出版社: 学芸出版社 (2013/10/1)
 言語 日本語
 ISBN-10: 4761525606
 ISBN-13: 978-4761525606
 発売日: 2013/10/1

 井上まるみさんとの最初の出会いは、日本建築学会での空気環境関係の部会でした。自然換気を目指して設計をされた滋賀の住宅の実測をさせて頂いたことがきっかけです。その後、大阪府建築士会でもお会いするようになり、時々お元気なお顔を拝見させて頂いております。

 「主婦建築家と考える」というタイトルにもあるように、使い手から見た「住まい」を考えて設計されているのがよく伝わります。中に、「住まいのことを建築家は、「作品」と呼びます。そして住宅メーカーは「商品」と呼び、不動産業界では「物件」と呼びます。そのようなものなのでしょうか。」という一文がありました。

 私も住宅設計を手がける者として、どの目線で住まいにアプローチするかは常々考えています。しかし、私たち設計者は、依頼者から依頼を受けてはじめて成り立つものであり、いわば依頼者に雇われたものですから、依頼者目線で考えるのが筋です。「作品」「商品」「物件」それは供給側の見方でしかありません。住宅を手にする側も、何となくそういうものに流されているのではないかと改めて考えさせられました。

 私は別に住まいを所有することだけが正解だとは思っていません。その人、その家族にとって、もっとも望ましい形に「所有」以外の形態があってもしかるべきだと思っています。それを一緒に考えていけるのも、実は設計事務所だと思っています。

 そんな初心を思い出させてくれた書籍でした。

 藤原唯人さんは、私の高校の一つ下の後輩です。非常に優秀な人物です。地元神戸で弁護士をしています。弁護士をしているくせに(失礼!)、「法律反するのか否かという議論は所詮「低い次元」の議論である」と言い切ります。私もかねてからそうだと思っていますが、それは法律家が言い切っていいのかどうか、若干心配になります(笑)

 そんな彼が、「イラストレーターのための」というタイトルで著作権に関する本を書きました。実に明瞭にまとめています。プロがプロの言葉でプロにしかわからない説明をするのは実に簡単です。プロが、素人にもわかる言葉で素人に説明するのは、かなり高度な技術と深い理解が必要です。私も、一般消費者、いわゆる素人から依頼を受けて、仕事をしている身です。プロ同士の仕事はほとんどありません。常々、素人に専門的なことを伝える難しさを痛感しています。

 そのような観点からも、非常に良くできた本だと感心しました。次は是非「設計事務所のための」著作権をまとめてもらいたいと思います。私たちもものを作る仕事です。私たちは依頼者の代弁をしながら、白い紙に線と文字を書いているだけです。実際の工事をするのは工務店です。私たちは工事はしません。依頼者が思い描いている、考えている、理想の建物にするために打合せを重ねて、依頼者の頭の中を専門的に置き換えて紙に書いているに過ぎません。そこに著作権が存するのか否か。であれば、著作者は依頼者ではないかと、考えることもしばしばあります。

 もちろん、私やうちの事務所にしかできない設計があると信じているから、今もこの仕事を続けています。そして、依頼者も思いもよらないような発想や提案をすることも仕事だと思っています。ただ、設計者の著作権は、守られているのでしょうか。無料で間取り相談をしてラフなスケッチを描かせて、そのままハウスメーカーで作っちゃう、なんて下品な話も耳にします。私たち設計者は守られているのか、大いに法律の専門家と議論したいところです(笑)

 玉水新吾さんは、大阪府建築士会の社会貢献委員会でご一緒しています。お会いしたときから実に理論派な方だと思っていましたが、今回の著書「住宅メンテナンスのツボ」を読ませて頂き、確信いたしました。

 私も普段から建物のメンテナンスの重要性をことあるごとに説いています。残念ながら日本では建物はあたかも消耗品のような扱われ方をし、人々の心の中にもそのような気持ちがあるのではないでしょうか。木造住宅は40年程度建てば、建て替えなければいけない、とか、鉄筋コンクリートはメンテナンスフリーだ、という「都市伝説」が普通に信じられているわけですから。

 大切に使えば長持ちします。木造住宅(きちんと建てられたという条件付ですが)がたかだか40年程度でどうこうなるわけがないです。なるとしたら、メンテナンスを怠っていたからに他なりません。

 そして、もっとも私が危惧するのは、業界でも「そう思われている」ことです。つまりこれは、メンテナンスやメンテナンスの仕方というものが業界で共通の認識になっていないということを意味します。その意味で、この本が投じる問題と、この本のターゲットとされている「若い技術者」に向けたメッセージには非常に意味があると感じます。

 はっきり言ってこの本を素人が持つ意味は、「家庭の医学」程度だと思って下さい。「家庭の医学」を読んで病気を知った気になったり、まして、治った気になってはいけないのと同じで、最終的には建物の「お医者さん」である建築士にきちんと相談して下さい。そして、建物所有者はそのようなお抱え建築士(かかりつけ医)をしっかり見つけておくことが大切です。そうすることで、建物の健康管理はしっかりできるでしょう。そして、その建物も、そこに住む人・使う人も、さらにはその町も、みんな幸せになるはずです。

 さて、さて。

 皆さんの本を読んでいると、私も本を書きたくなりました。どんな本を書くんだ?と自問するのですが、この出版氷河期にどんな本のニーズがあるんですかね。ちょっと考えてみます(笑)