設計事務所の費用1

先週は「設計事務所の費用」を考える上で象徴的な二つの出来事がありました。どちらも小規模なマンションの劣化診断と大規模修繕工事の見積のお話です。

まず、前提のお話から。
当事務所でも、分譲マンションの劣化診断調査や大規模修繕工事の設計監理に関するコンサルティング業務を行っています。最近は、マンションのコンサルタントを探すとき、入札や公募による見積合わせをするマンションが増えてきました。それは、それでありがちな姿だと思います。一見、正しく見えますし、マンションという組織では住民間の合意をとるときに「何社か見積を依頼して最も安かったコンサルタントにしました」というストーリーは説得力があるからでしょう。

このような仕事をしていると、時々「見積に参加してもらえないか?」という依頼があります。私は基本的に「競争入札には入らない」というスタンスをとっています。なぜなら、当事務所のコンサルティング業務費用は、他社に比べて「高い」ことを認識しているからです。高いから、時間を掛けて見積書を作っても、たいてい断られます。断るために見積もりをだすようなものですので、最初からそのレースにはのらない、というスタンスになります。

さて、ことコンサルティング業務において「安い」ということが「よい」ことでしょうか?
工事業者の相見積と比較すればわかりやすいのですが、工事業者が見積をするときに、その見積の元になるのは「設計図書」です。つまり、料理で言うところの「レシピ」がはっきりしています。つまり、レシピが公開されているわけですから、極端に言えば誰が作っても同じモノができるはずです。もちろん上手下手はでるでしょう。しかし、作る人に要求されることは、レシピに書かれている材料を如何に安く入手できるか、手際よく調理ができるか、です。その部分を単純に競い合うのが工事業者の相見積です。

一方、コンサルティング業務において、「見積をしてください」というのは、実はものすごく難しいです。なぜなら、「レシピ」に相当する「仕様」がはっきりしていないからです。当たり前ですが、その「仕様」を作るのが設計事務所の仕事なわけですから、設計事務所を単純に比較するための「仕様」を作るとなると、永遠に決まりません。となると、どうするのか。ある程度、エイヤで見積をせざるを得なくなります。つまり、そうなったときの見積比較は、成果物の程度がわからない状態の比較しにくいモノになっているといえます。

冒頭に、当事務所の見積は高い、と書きました。求められた成果を、当事務所のまともな報酬から積算すると、これぐらい必要である、という金額があります。それが、一般的な事務所から見比べると「高い」わけですが、私から見れば「安すぎる」と思われることがしばしばあります。

設計事務所が、まともな報酬よりも安くすることができるのか、といわれるとどう思われますか?
そんなもの営業努力でなんとでもなるだろ、とお思いでしょうか?

設計事務所は、何かを仕入れてきて利益をのせて売るという仕事ではありません。元手はほとんどかかりません。ただ、診断や設計・監理をするために、日々研鑽を積みあげていく必要があります。研修会に参加したり、同業者と意見交換をしたり、メーカーから意見を聞いたり、などなど。それらは、当然費用がかかります。設計報酬を安くするために、こういった積み上げを少し手を抜けば、安くできるかもしれません。正当な報酬が得られれば本来1つすればい程度の業務量で、がんばって2つ又は3つこなしていけば安くできるかもしれません。

これらは、一つの例ですが、同じ仕事を依頼したときに設計報酬が異なる理由はこのようなところにあります。同じような理由で、私は設計報酬を値切られるのは好きではありません。最初から値切られることを想定した見積もりを出しているわけではありませんし、値切ると言うことはそれだけ必要な部分を切り崩すと言うことです。平たく言うと「手を抜く」しか安くできる方法がないからです。

ということで、長くなったので、続きは次のブログにします。今週中にかけるかもしれませんし、来週になるかもしれません。気長にお待ちください。