家の適正価格

構造計算偽造事件は非常に大きな広がりを見せています。当たり前といえば当たり前です。

しかし、業界では意外と冷ややかですが、「そんなん氷山の一角でしかない。」という空気。
だいたいこういう時はマスコミもセンセーショナルなネタや映像でわかりやすい構図が売れるので、被害者のマンション住民が「善」で、偽造した姉歯は当然として、分譲会社・施工者・民間確認検査機関しいては国までが「悪」という構図を作って、「善」の悲しげな映像と「悪」の開き直った映像がもてはやされます。そりゃ絵になりますもの。

ものの値段というのは、多くの場合需要と供給のバランスで成り立ちます。需要としてこの商品はだいたい1000円ぐらいなら売れるだろう、供給側はこの商品を売るための経費や利益を考えてだいたい650円ぐらいで作ればいいだろう(作らないといけない)。という風に。

住宅も「商品」という考え方であればそうかもしれません。しかし、多くの人には住宅に対する夢や思いがあります。こんなデザインがいいなぁ、とかこんな設備を入れたいとか、こんな仕上げにしたい、とか。そうなったところで、大量に生産される「商品」というものから、あなただけのオーダーメード品になってしまいます。オーダーメード品の値段の付け方は、材料を買うのにいくらかかるか、それを組み立てるのに必要な人件費はいくらかかるのか、作るための電気代や水道代はいくらかかるのか、それらを全部足し算して「値段」が決まります。

しかし、マンションはすでに「商品」になっています。(最も、ハウスメーカーの家も建て売りも「商品」でしかありませんが。)つまり、商品になった時点で「需要と供給」のバランスシステムに飲み込まれるわけです。マンション供給側は、「安く」作り「高く」売る。買う側は「いかに安く」買うか。

姉歯はいいます。「コストダウンは業界の常識。」
安くないと売れない → どんどん安くなる のいたちごっこ。誰が求めるか。最終的には一般消費者です。先ほどの構図で言う「善」の存在である一般消費者が求めることに答えるから「悪」者は人ごとのように開き直るわけです。

そんなこと言ったって、「安く売っているねんから、同じもの買うんだったら安い方がいいに決まっている。」そりゃそうです。しかし、安いには理由があります。スーパーで安い牛乳や野菜を買う時には、何故安いかを考えると思います。「賞味期限が近づいている」「少し傷んでいる」とか。

マンションだって建て売りだってそうです。安いには安いなりの理由があるのです。先ほどの「適正価格」を考えて、そんなに安いのはお得だ、と短絡的に考えずに、少し立ち止まって考えてみて下さい。「大量生産商品」を買うのか「オーダーメード品」にするのか。

私は今回の事件。おそらくマスコミも熱いうちは、「善」と「悪」の構図だけで騒ぎ立てます。しかし、ほとぼりが冷めると、どこ吹く風で見向きもしません。尼崎の事故も今はすでにそうなっています。大事なものは何か。「善」と「悪」というわかりやすい構図を作るだけではなく、そのシステムには「善」も「悪」もなくすべての人が関わっていると言うことを認識することです。その上で、これからどうするかを考えるべきです。あえて悪者になって言いますが、「とにかく安いだけを求めて検証をしなかった一般消費者だって、裏を返せば「悪」です。」そこにあぐらをかいた業者は、もっと悪ですけど。

ちゃんと調べていないのでどうか分かりませんが、今回のこの姉歯が関わった建物は適正価格だったのか、スーパーの賞味期限間近の特売品だったのか? きちんと検証する必要がありそうです。そのあたりは一般の人も「知らなかった」ではいけないと思います。再三私はこのページで言っていますが、信頼できる人にきちんと費用をかけて頼むことが大切なのです。本当に信頼して費用をかけましたか? 知名度やブランド、株価で会社を信頼していませんか? きちんと自分の目で見て信頼できる専門家だと認識しましたか? 自分で自分を守ることがこれから最も求められる能力のような気がします。

国家資格を持って背信した姉歯は言うまでもなく悪いです。それをチェックしなかった民間検査機関も悪いかもしれません。でも悪いのはそれだけではない気がしてなりません。

家は「商品」ではありません。正しく本当に間違いのない家を造るには、そのシステムすべてを透明にすることが必要です。たとえば2000万円の家はなぜ 2000万円になったのかを知るべきなのです。あなたの家の骨組みはどうなっていて、それを作るためにはどのような工程を経たのか、どんな設備を入れたのか、それをすべて掌握することが大事です。そうすることが、間違いのない家を造るための必要不可欠な条件です。「マンション」や「建て売り」ではそのあたりのことは全く分かりません。今問題になっている建物は明らかに構造が不足しているようですが、ほかは大丈夫なのか? 結局のところ、確認申請の構造計算は正しくしていても正しく施工されているかどうかは、途中の工程を見ずにできあがってから買うのでは分からないのです。当然ですが、私をはじめ「商品」を作らない設計事務所は自分の設計した物件のどこがどうなっているかは、きっちりと把握しています。だからこそ部材一本、釘一本まで価格を透明にできるのです。

「大量生産商品」を買うのか「オーダーメード品」にするのか。あなたはどちらをとりますか?