さて、前回までで修繕設計ができるまでに至りました。いよいよ修繕設計がスタートします。
ここまでしっかりと専門家(マンション管理組合の側にたって相談に乗ってくれるコンサルタント)と足並みをそろえておこなってきた管理組合は、修繕設計も専門家(コンサルタント)に頼まれるでしょう。しかし、そうでないマンションは「専門家」に頼まずに「工事業者」に頼むかもしれません。このシリーズで何度もお話ししましたので、この「工事業者」に頼むことが最終的にどういうことになるかはもうここまで読んで頂いた方には分かっておられると思います。もちろん、常に失敗するわけではありません。うまくいくかもしれません。しかし、それはとてもリスクの大きいことになります。
さて前回もお話ししましたが、劣化診断とは第三者の専門家が傷んだ部分等の修繕をまとめているにすぎません。これは、傷んだ部位の修繕(元に戻すこと)を前提にしているからです。しかし、マンションも大規模修繕をしようとするぐらいですから、すでに築10年以上が経過して、新築当時は良かったものが今の生活規準だとちょっと・・・、というところも出てくるわけです。すんでいる人たちの年齢層や家族構成も変わり、ちょっと使いにくくなってきたなぁという箇所も気になりだすわけです。
バリアフリーの問題、断熱性の問題、使い勝手がわるい自転車置き場や駐車場の問題、電気容量の問題、最近ならインターネットなどの通信設備の問題、給水管・排水管の問題などなど。
せっかくちょっぴりくたびれてきた外壁の塗り替えや屋上防水などを補修するわけですから、それに合わせて「自分たちの住まいを見直して、よりよい住まいにしていく」という考え方も入れていくことが容易なのだ大規模修繕なのです。何もないのに「バリアフリー工事をしましょう」といっても理事会や総会では通りにくいですが、大規模修繕の時なら少しの追加費用で考えることだってできます。考えるだけで予算が合わなければ次の機会に回せばいいわけです。設計だけをやっておいて工事をしないというのも手です。また新たにその設計を頼んで、工事をしてとすると余計な費用もかかりますが、大規模修繕に合わせて設計するのなら費用の追加もしれています。
しかし、しかし。元々のきっかけは外壁の塗装や屋上防水などです。それらをしっかりと機能回復させてはじめて改修工事の価値が出るわけです。いくらバリアフリー工事をして使いやすくなったとしても、本体のコンクリート補修や防水工事などが手落ちなら何をしていることか分かりません。
修繕設計はどのようにするか? これは一般的な設計と全く同じです。新築の住宅やビルを設計するときだって同じことをします。
修繕設計は、専門家と管理組合が共同で、設定された修繕範囲と予算に基づいて、各部分の修繕具体的な修繕の内容・工法・材料・仕様などをまとめていきます。それを専門家によって仕様書(一冊のちょっとした本になります。)としてまとめ、設計図書をそろえます。同時に専門家は設計図書に基づいて工事発注の参考にするための予算書を作成し、見積要項書・見積条件などを整理します。
難しい用語がいろいろと出てきましたので、少し解説します。
工法というのは「工事をするための方法」です。仕様というのは「工事をする手順や使う材料などを細かく書いた図書」です。コンクリート亀裂の補修を一つとってもいろいろな方法があります。その建物の状況や修繕程度などによって補修方法を一つ一つ丁寧に決めていかなければいけません。補修方法が異なるということは、補修にかかる費用が変わるということですから、正しい方法と費用で最も効果的な結果を得る必要があります。
また、予算書(正式には「設計見積」といいます)は専門家が設計した設計内容を積算したものです。つまり専門家が考える「工事に要する費用」といったところです。業者に見積もりを出す前に設計見積を作るには意味があります。それは次回の業者選定でご説明します。
見積要項書・見積条件とは、見積依頼業者が足並みをそろえるために「こういった条件で見積をして下さい」といったものをまとめたものです。工期は?支払い条件は?工事中の車両はどうするか?足場の設置範囲はどうするか?などなどです。これら前提条件が異なるとせっかく何社かに見積もりを出したとしても比較するのが難しくなります。
さらにマンション大規模修繕の場合は、新築と異なり、工事中における居住者の生活上の支障についての十分な検討と対策を管理組合が行なう必要があります。新築なら少々の変更があっても工期内にきっちり仕事ができればそう問題になることはありませんが、大規模修繕の場合は居住者が住みながらの工事です。工事の進行具合や工事内容などの予定に合わせて、エアコンが使えない、洗濯が干せない、出入り口がかわる、などの支障が生じます。それらを設計の段階できっちりと検討して調整しておくことが必要です。また費用のかかることであれば見積の中にきっちり含んでおくようにする必要があります。
これらをまとめるのが修繕設計です。5段落前に「専門家と管理組合が共同で~」なんて書いてたけど、管理組合(理事会や修繕委員会)がそんなことできないよ~、と思われるかもしれません。いやいや。だからこそ専門家が管理組合側にいるわけです。専門家は、管理組合の状況を知って、建物の現状を知った上で、こうした方がいいですよ、この方法がありますよ、などメリットとデメリットを説明してくれます。その中で専門家と相談しながら自分たちにとって最良の方法を選択することができるのです。
また多くの管理組合では、修繕設計の打合せには理事会や修繕委員会を設けて対応します。いちいち全住戸で対応できないですからね。その時に大切なのは、理事会や修繕委員会も一つ一つ住民に広報やアンケートなどで、今修繕設計はどんな風に進んでいるのか、何を決めていっているのか、を知らせること・意見を募ることです。そんな専門的なことを素人の住民に知らせたり意見を聞くことは無意味だ!と思われる方がおられるかもしれません。しかし、マンションは区分所有者全員のものです。これまでの劣化診断も、修繕設計も、そしてこれから行う大規模修繕の発注者もすべて、所有者つまり管理組合=区分所有者全員なのです。素人だからといって「広報しても分からないだろう」「専門的なことは専門家に任せておけばよい」ということでいいですか? 理事会や修繕委員会でない区分所有者も「専門的なことは分からないから」「理事会や委員が良きに計らってくれるだろう」ということであなたの建物はそれでいいですか?
何度も繰り返しになりますが、こういった丁寧な広報やアンケートはとても重要です。先ほど「新築と違って~」というお話をしましたが、この広報なども新築と大きく異なるところです。新築の場合は家族内での相談になりますが、マンションの場合は家族がたくさん集まっているということです。導入編でもお話ししましたが、ひとりで決められないのがマンションです。そこには徹底した情報公開と意思統一が必要になります。
また、その相談に乗る専門家(コンサルタント)には、そういったマンションの特殊性を理解した上で、広報作りなどに協力してくれる専門的な知識が求められます。
逆に言うと、専門家を選ぶ規準にもなります。
そんなこんなで、修繕(コンクリート補修や防水改修)部分の設計と改修箇所の設計がまとまれば、無事一冊の設計図書・仕様書という本になります。
こうして無事修繕設計が終わるといよいよ業者選定に進みます。