マンション<大規模修繕の取り組み方 その5>

4.修繕範囲と予算を設定しましょう

前回までで劣化診断をしそれを住民全体に広報し、情報を共有しすることができました。これで、マンションを大規模修繕するための、そしてなおよりよくするための下地ができました。

さて、これまで話しをしましたとおり、劣化診断をすることによって、

(1)どこが悪いのか?
(2)あとどの程度持つのか?(放置するとどうなるのか?)
(3)費用はいくらか?

が分かります。というより、それを提示してもらうのが”第三者の専門家による劣化診断”の意味です。
ここで、”第三者”というのがキーワードです。
以前にも書きましたが、劣化診断と言っても、最近はマンション修繕をよくやっている施工業者や塗料メーカーなども積極的に営業をして「劣化診断しますよ」といってくれます。もちろん管理会社なども下請けをつれてきてやってくれるかもしれません。私は「それが悪い」とは言いません。いろんな選択肢があってその中から自分たちにとってよいものを選べばいいわけですから。

しかし、劣化診断を「工事を直接しない第三者の専門家(いわゆる設計事務所やコンサルタント)」に依頼することで、公平中立な立場でマンションの状態を把握することができ、修繕の緊急度やその修繕にかかる費用が算出できるわけです。もし、塗料メーカーに頼めば、塗料のことはよく見てくれるかもしれませんが、当然のことながら自社の塗料しか推薦しません。施工会社も自分たちの工事の都合のいいように考えた修繕を提案するかもしれません。つまり、マンション住民や管理組合と立場が違い見方が違うので、「このマンションはこのようにした方がいいなぁ」ということよりも「このマンションではこの工事や材料を使う方がいいなぁ」と見るわけです。企業としてはそれはとても大切なことです。しかし、マンションの住民の立場や見方をしてくれるわけではありませんので、結果的にいいものになるのかは分かりません。

その同じ目線に立ってマンションの見方となってくれるのが、工事などで利害関係が生じない設計事務所やコンサルタントです。この業者を使ってくれとかこのメーカーを使ってくれと言った特定の業者・メーカーを指定してくる専門家や設計事務所がないわけではありません。しかし、それでは本来マンションの立場に立って・・・、というのが難しくなるのは、ここまで読んでいただいている読者の皆さんは容易に想像が付くでしょう。ここも実は専門家を見極めるポイントとなります。

またしても話が横道にそれましたが、そんなこんなで劣化診断をした後に、修繕設計をはじめる前に、劣化診断によって明らかになった、修繕箇所とその概算費用などを参考にして管理組合において、具体的な修繕範囲と予算規模を定めます。その時に、先程述べました緊急度を考慮することも大切ですし、優先順位をつけていくことも大切です。また、何かと何かの工事をまとめた方が効率的であるとか、無駄がなくなるとか、足場をかける工事だったらついでにこれもやっておこうとか、そういった複雑な組み合わせやシミュレーションが必要になります。
ここまでくると、さすがに一般の人では大変だと思います。だから、うまく専門家を使おうということになります。

しかし、劣化診断とは第三者の専門家が傷んだ部分等の修繕をまとめているにすぎません。つまり、傷んだ部位の修繕(元に戻す)こともを前提に劣化診断をしているわけです。
もちろんそのことはとても大切ですが、それと同時に住まいとしての快適性や利便性を考慮した改善・改良なども積極的に取り入れる検討をすることが必要になります。
バリアフリーの問題、断熱性の問題、使い勝手がわるい自転車置き場や駐車場の問題、マンションも大規模修繕をする頃にはいろいろと”もっとこうあったら便利だろうになぁ”と言うことがたくさん出てきます。時代の流れにあわせて変えていくことも多々出てきます。

普段思っていながらなかなかきっかけのないこういったことも、大規模修繕に便乗して工事をすることもできます。また、このようなよりよくする工事は理事会や修繕委員会だけではなく、多くの住民に広く意見を求めて、”住民に積極的に参加してもらう”修繕工事を行うきっかけにもなります。

さて、次回はいよいよ修繕設計の核心に触れていきたいと思います。