ミレニアム問題(Wikipedia)というのをご存じだろうか?
2000年にアメリカのクレイ数学研究所が発表した数学上の未解決問題でなおかつ重要性が高いと思われる問題である。
合計7つあり、証明すれば100万ドルの懸賞金がかけられている。
(詳しくは、リンク先のWikipediaを参照)
以前、このブログでも私が数学が好きだ、ということはご存じの方が多いとおもいます。ミレニアム問題の一つでもある「リーマン予想」についても何冊か本を読んだことがあります。
といって、自分で証明できるほどの実力は当然ありませんので、眺めて「なるほど」と思ったり、時の数学者の格闘や苦悶の様子を感じて同調したり、そんな程度ですが。
この本は、ミレニアム問題の一つである、「ポアンカレ予想」を説いたロシア人数学者グリゴリー・ペレルマンの謎を追った、2007年10月22日放送のNHKスペシャル『100年の難問はなぜ解けたのか ~天才数学者 失踪の謎~』の取材ノートをまとめた書籍である。
NHKスペシャル 100年の難問はなぜ解けたのか―天才数学者の光と影 (単行本)
春日 真人 (著)
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# 単行本: 229ページ
# 出版社: 日本放送出版協会 (2008/06)
# ISBN-10: 4140812826
# ISBN-13: 978-4140812822
# 発売日: 2008/06
なぜ、ペレルマンが謎なのか?
2006年度ポアンカレ予想を証明したことにより、4年に一度しかない数学界のノーベル賞と言われているフィールズ賞の受賞を辞退したこと。
懸賞金の100万ドルを受け取らなかったこと
いまだ人前にほとんど姿を見せないこと
そして、どうやってっポアンカレ予想を証明したのか、ということ。
この本は、非常に丁寧な取材を簡潔にまとめたものであり、内容にはほとんど数学は出てこない。うまくまとめており、実に読みやすい書籍となっている。
正直に言うと、私は数論や微分積分には興味はあるが、幾何学はあまり得意ではない。が、現代数学を語るときにやはり幾何学は避けて通れない。この本を読んで初めてポアンカレ予想がなにかという概要をつかむことができたので、非常に感謝している。
ポアンカレ予想とは何か?Wikipediaを見ていただいたらいいが、
単連結な3次元閉多様体は3次元球面S3に同相である。
という命題である。はい、この時点でこの命題が日本語かどうかすら既に怪しくなってきていますね。間違いなくこれは数学語です。
まぁ、もっとも私の大好きなリーマン予想も
ζ(s) の自明でない零点sは、全て実部が1/2の直線上に存在する。
という、これまた数学語ですが、数学の世界はこんな感じなのです。
ちなみに、このリーマン予想も証明されていませんし、ミレニアム懸賞問題になっています。
何のために数学があるのか、それに命をかける人はどういう精神構造しているのか。なんて言う質問は無粋です。
サッカーが好きな少年にどうしてサッカーをするのか、と聞くことと同じです。好きなものは好きなのです。
数学は何のためにあるのか? この質問の無粋ですよね。おそらく。
彫刻は何のためにあるのか、と聞くことと同じなのでしょう。美しいものはどこからどう見ても美しいのです。
何度か書いたような気がしますが、数学の証明の美しさは建築の美しさと相通じるものがあります。建築の美しさ、とは見た目だけではありません。機能的な美しさ、構造的な美しさ、それら全てを満足させるものです。美しいものは美しい。ただそれだけなのでしょう。
でも、実際には数学は日常生活で非常に役に立っています。一見、こんなどうでもいいような数学でも、その証明過程や数学者が悩んだ中で生み出された副産物(手法や定理)は日常生活に使われることが多いのです。
ペレルマンはポアンカレ予想の証明に、微分幾何学と物理学の手法を使って解いたといわれている。私にはその詳細はわからない。ポアンカレ予想というのは殆どの数学者がトポロジー(位相幾何学)を使って証明しようとしている。数学の命題に対して、熱量やエントロピーなどの物理学の考え方も用いて証明したことは、美しかったのかどうか? いわばサッカーの試合にバットとラケットで臨んだみたいなある試合だ、と考える数学者もいるようです。
私はよくわからないが、本当は位相幾何学だけでもっと美しい証明方法があったのかどうか。あるいはペレルマンの証明方法が唯一絶対なものだったのか。個人的には非常に興味のあるところで、それに挑戦する数学者がいるかも知れません。ただ、証明されてしまった問題に興味を持つ数学者は少ないでしょうね。
数学とはそんな世界なのかも知れません。