設計事務所が建物の設計や監理を依頼された場合に実施する業務について簡単にご説明いたします。
まずは当事務所ホームページ(https://www.pap-pro.com/koma/)の「よく寄せられる質問」>「結局「設計事務所」って何をするところなのですか?」から引用します。
何でもします。設計者とは依頼者の代理人です。依頼者がしたいと思ったこと、実現したいと思ったことを代行するのが設計事務所の仕事です。たとえば「こんな家がほしいなぁ。」「こんな空間にしたい。」「こういったことで困っている。」などといったことに対して、専門的な技術や知識を持っていないとどうしたらいいのかわからないことがしばしばあると思います。そういったことを一つ一つお聞かせいただき、どうすれば実現するかをアドバイスし、実行し、時には弁護士などの他の専門家を紹介したり、共同で実行したり、といったことをします。つまり、何だっていいのです。「こんなこと頼んでいいのかなぁ」ということから頼んでいただければ、きっとあなたの願いは叶えられると思います。 従って、私たちはお客さんからしか報酬はいただきません。それが本来の代理人のモラルです。施工業者に紹介したからといって、バックマージンをもらったり、お客さん以外の人から紹介料や手数料をいただくことはお客さんにとって不利益になると思うからです。もし、施工業者が我々設計者に払う紹介料があるのなら、その分を工事金額から値引きするべきです。 私は設計者として、お客さんに成り代わって業務の遂行に当たるものとしてお客さんからしか報酬をいただきませんが、お客さんからみたらその報酬は決して安いものではないと思います。しかし、こうすることでお客さんの権利や利益が守られると信じています。お客さんにとって総合的にメリットのある方法だと思っています。 |
当事務所の設計監理業務委託契約書から業務の部分を抜粋すると以下の通りです。
一、基本設計 101 設計条件の整理 102 法令上の諸条件の調査・打合せ 103 上下水道・ガス等の供給状況の調査 104 その他の官公庁を含む関係者との必要な打合せ 105 基本設計方針の策定 106 基本設計と基本設計図書の作成 107 工事費などについての相談 108 基本設計内容の説明と委託者の承認 二、実施設計 201 実施設計と実施設計図書(構造図、各設備設計図・敷地造成及び造園を含む)の作成 202 工事仕様書の作成 203 工事費概算書の作成 204 建築基準法に基づく確認申請手続きへの協力 205 その他必要な法令上の手続きへの協力 206 金融機関等への借り入れを含む資金計画の相談 三、工事監理 301 施工者選定についての助言 302 工事請負契約の準備への技術的助言 303 見積徴収事務の協力 304 見積書内容の検討 305 施工者との打合せ及び図面等の作成 306 施工者との協議等 307 施工図等の検討・承認 308 施工計画の検討・助言 309 工事中の確認及び検査等 310 軽微な設計変更に対する処理 311 工事中の官公庁等との協議及び検査の立会い等 312 工事費の査定 |
(当事務所の設計監理業務委託契約書より引用)
ここに上げる業務がすべての業務を行った場合の、当方事務所が行う業務内容です。通常は、この中から必要な項目を選択して、特別に追加する場合は書き加えた内容で業務委託される事になります。
簡単にまとめると、設計監理とは、建築主と打合せを通して設計図面や仕様書などを作成する、また官公庁等との協議・申請代行を行う「設計業務」と、工事中に設計図や仕様書通りできているかどうかを確認する、業者と工事内容について協議する「監理業務」が大きな柱になります。
一般に建物を新築される場合もリフォームされる場合も<建築主>と<設計・監理者>、<施工者>の三者は明確に分離する方が望ましいです。それぞれの契約も<建築主>と<設計・監理者>、<建築主>と<施工者>とされる方が、建築主自らを守る事につながります。つまり、<設計・監理者>を入れないまま、工事を進めると、<施工者>が行った工事の内容が「適切であるかどうか」の判断ができなくなり、「いい加減な」工事になることが多いからです。
つまり、<建築主>にとって<設計・監理者>は、<建築主>が雇った“代理人”であり、<設計・監理者>は<建築主>のために全力を尽くすことができるシステムを作ることが、<建築主>にとってもっとも得策であるはずです。この仕組みは、<設計・監理者>が完全に独立した組織であるから初めて成立するものです。もし、<設計・監理者>が<施工者>の内部の組織であったり、下請けの構造であると、その<設計・監理者>は<建築主>のために知恵を絞るのではなく、<施工者>の利益のために働くようになるでしょう。
Ⅰ 設計事務所の役割
1.設計事務所が方向性のとりまとめ、問題点の整理を行います。
建築主・発注者と利害関係を一にする設計事務所だからこそ、建築主・発注者の意向を整理することが可能になります。工務店やゼネコンは工事規模が大きいほど儲けも大きくなります。建築主・発注者と利益相反するものですが、それが一般的です。建築主・発注者の立場に立って考えることができるのは、建築主・発注者から依頼された設計事務所だけです。
2.設計事務所が図面を作成するから、見積比較ができるようになります。
工事の内容が詳細に決まっていない段階で施工業者に見積を依頼すると、施工業者は不明な部分に対して、不十分な見積しかできなくなります。その結果、工事前にはわからなかった追加変更工事が発生し、予算を大幅にオーバーしてしまうこともしばしばあります。設計事務所はできる限り不明確な部分を無くし、工事の内容(仕様)を整えたうえで、図面を作成します。従った、その図面を使って行った施工業者の見積は、単純に高い安井を比較することがしやすくなります。同時に、予想外の追加変更は防ぐことができます。
3.設計事務所だから見積査定ができます。
建築にまつわるお金が読めるからこそ施工業者の見積の査定ができます。また、追加変更の見積書も査定をします。つまり、適正な価格で工事業者と契約することが可能になります。設計事務所に必要な費用はおおむね総工費の8~10%程度ですが、これらの作業を含めたトータルで考えて決して高い金額にはなりません。言い換えると、設計事務所に頼んだ方が高くなるようであれば、設計事務所は商売として成り立たないということになります。
Ⅱ 建築の三権分立(役割分担)
1)設計
その者の責任において設計図書を作成すること(建築士法2条5項)
→設計内容に関する適切な説明を行う(建築士法18条3項)
2)施工
設計図書に基づいて、建設工事を実施すること
→公正な契約を締結し信義誠実に履行する(建設業法18条)
3)監理
その者の責任において工事を設計図書と照合し、それが設計図書のとおりに実施されているかいないかを確認すること(建築士法2条6項)
→工事が設計図書通りに実施されていないときは直ちに注意を与え、施工者が注意に従わないときはその旨を建築主に報告する(建築士法18条3項)
←施工者が、監理者から設計図書のとおりに施工するよう求められた場合に、これに従わないときは、注文者にその理由を報告する(建設業法23条の2)
【設計・施工・監理の役割分担】
これから、設計・監理を第三者である設計事務所に業務を依頼される際は、以上のような仕組みをよくご検討・ご理解の上、ご依頼ください。