program2026

- Greeting -
 「フェッセルン・アンサンブル第30回定期演奏会」にご来場いただきまして、誠にありがとうございます。年1回、毎年コツコツと、メンバーが入れ替わったり戻ったりしながら、コロナ禍の時も騒がしい世間の隙間を縫って歩みを止めずに積み上げてきました。私自身はただ毎年やりたくて続けてきただけ、と思っていましたが、さまざまな方から「すごいですね」と言われ続けるうちに、30回という時間の重みを、あらためて感じています。
 
 すごいことで言えば、この10年ほど毎年200~300人のお客様にお越しいただいていることも、本当にありがたく、私たちの大きな支えです。さらに何よりうれしいのは、演奏会メンバーの子どもたちが同じステージに立っていることです。クラシック音楽が何百年も継承されてきたのは、飽きることのない作品があり、飽きずに演奏し続ける人がいて、その時間を同じ場所で分かち合う人がいて、そして次の世代へと受け継がれていくからだと、胸が熱くなります。

 今回のタイトルは「名建築で名曲を」としました。テレビ東京系列で「名建築で昼食を」というドラマが2020年(東京編)と2022年(大阪編)に放送されていましたが、そのときのタイトルをお借りしました。大阪編の第1回(2022年8月18日)放送がここ「綿業会館」でした。綿業会館はまごうことなき名建築です。その空間で音を響かせられることを、心から光栄に思っています。そして今回ご用意したのは、ヨハン・シュトラウス2世《春の声》、カサモラータとラブルの四重奏曲、モーツァルトのクラリネット五重奏曲の4曲です。《春の声》と五重奏曲は広く知られた名曲ですが、カサモラータとラブルはまさに“掘り出し物”。楽譜を見て「これは!」と心が動いた作品です。カサモラータに至っては、私も今回初めて作曲家名を知りました。イタリア・フィレンツェの図書館の閉架資料に原譜のスキャンがあり、それをネットで閲覧できたことも忘れられない出会いです。ラブルは以前にも取り上げましたが、再び取り上げたいと思わせてくれる音楽です。どの作品も、クラシックの世界の中で「名曲」として継承されてほしいと願っています。

 本日はお忙しい中、ご来場くださいまして誠にありがとうございます。皆さまとともに、私たち奏者も「名建築で名曲を」楽しみたいと思います。どうぞ心ゆくまでお楽しみください。
- Program -
J・シュトラウス2世
 Johann Strauss II. (1825-1899)
春の声 Op.410
Fruhlingsstimmen, Op.410
ソプラノ : 山本 操代 指揮 : 橋本 頼幸 ピアノ :手嶋 有希
クラリネット :大屋 知子 ホルン :杉村 由美子 バソン :瀬尾 哲也
ヴァイオリン :熊田 千穂 宮木 義治 西川 太翔 西川 友理子
ヴィオラ :橋本 喜代美 チェロ :永山 依央理 森田 尚美
カサモラータ
 Luigi Ferdinando Casamorata (1807-1881)
四重奏曲 ピアノ、クラリネット、ホルンとファゴットのための
Quartetto per Piano-forte, Clarinetto, Corno e Fagotto
Ⅰ: Allegro maestoso
Ⅱ: Andante
Ⅲ: Allegro vivace
クラリネット :橋本 頼幸 ホルン :杉村 由美子
バソン :瀬尾 哲也 ピアノ :手嶋 有希
ラブル
 Walter Rabl (1873-1940)
四重奏曲 ピアノ、ヴァイオリン、クラリネットとチェロのための Op.1
Quartet for Piano, Violin, Clarinet, and Cello, Op.1
Ⅰ: Allegro moderato
Ⅱ: Adagio molto – Un poco più lento – Allegro vivace – Adagio
molto e cantabile – Andante ma non troppo – Lento grandioso
Ⅲ: Andantino un poco mosso
Ⅳ: Allegro con brio
ピアノ :木田 淳 クラリネット :橋本 頼幸
ヴァイオリン :宮木 義治 チェロ :永山 依央理
モーツァルト
 Wolfgang Amadeus Mozart (1756-1791)
クラリネット五重奏曲 K.581
Quintett für Klarinette und Streichquartett A-Dur KV 581
Ⅰ: Allegro
Ⅱ: Larghetto
Ⅲ: Menuetto
Ⅳ: Allegretto con variazioni
クラリネット :橋本 頼幸 1stヴァイオリン :宮木 義治
2ndヴァイオリン :熊田 千穂 ヴィオラ :橋本 喜代美
チェロ :森田 尚美
- Program Notes -
春の声 Op.410
J. シュトラウス2世

 

 この曲は春の訪れとともに草花たちが目覚め新しい生命や希望、自身の3回目の結婚に向けた恋の喜びなどが生き生きとした曲調で表現されています。ウィンナ・ワルツを最盛期へと導き、彼自身の円熟期が重なって出来上がった一曲です。短い序奏は弦の高音から響き、一息の間を楽しんでからお馴染みのワルツのリズムで誘導されソプラノの歌唱が始まります。朝はヒバリが歌い舞い、夜もナイチンゲールの美しい鳴き声が聴こえてくるといった冬から春への変化を明るい旋律と躍動感で歌っていきます。中間部は短調へ転調し、雪解けを待つ新芽が静かに季節の移ろいを待ち哀愁を漂わせます。再び主題に戻ると春の訪れだけではなく、全てへの祝福と希望で満ち溢れたまま春風とともに花びらが舞い散るかのように清々しい締めくくりとなります。本日の私たちの演奏で皆様を当時のヨーロッパの春へお連れいたします。どうぞお楽しみください♫ (M.Yamamoto)
四重奏曲
カサモラータ

 

 カサモラータという作曲家の名前を初めて聞いたという方がほとんどだと思われますので、少しばかり経歴を紹介します。19世紀のイタリアで作曲家、音楽評論家として活動し、フィレンツェ音楽院の院長も務めました。今の日本で考えると、音楽大学の先生というところでしょうか。率直に説明すると「生きているときはえらい人だったが、没後は曲の多くが忘れられて今に至る」ということになります。今回演奏することになったのは、フィレンツェ音楽院に留学されていた方が音楽院で保存されていた楽譜を「発見」したことがきっかけです。ピアノ、クラリネット、ホルン、バソンの四重奏という編成は大変珍しく、しかも有名な音大の学長職にあった「えらい先生」の作品だから、さぞかし難解でマニアックな曲なんだろうと想像したのですが、意外なことに、小さな宝箱に入った宝物を愛でるような、キラキラした感じの可愛らしい曲です。犬に例えたらトイプードルとかチワワみたいな可愛らしさ。本日お聴きいただける皆様にこの可愛さが表現できればと思います。 (Y.Sugimura)
四重奏曲 Op.1
ラブル

 

 30年の中で2回目の演奏となる本曲は、クラリネット、バイオリン、チェロ、ピアノというユニークな編成をもつ後期ロマン派の室内楽作品です。1896年、ラブル23歳の時に書かれた彼の記念すべき作品番号1番で、ブラームスが名誉総裁を務めていたウィーン楽友協会の作曲コンクールに応募され見事第1位を獲得した作品です。ブラームス自身がこの曲を非常に高く評価し、出版社へ強く推薦したことで世に知られることとなりました。全4楽章構成の典型的なソナタ形式を基調としつつ、ブラームス的な重厚さ・劇的さとラブルの故郷ウィーンの華やかさが絶妙に混ざった作風で、ひとたびその旋律に触れると虜になること間違いなしです。各楽器共に抒情的に歌い上げる面と技巧的な面を併せ持っており、難度は高いですが奏者としてもとてもやりがいのある曲です。前回2015年から橋本君以外は新たなメンバーでの演奏となります。より円熟味の増したクラリネットの音色とともに各奏者の情熱的な演奏をお楽しみください! (Y.Miyaki)
クラリネット五重奏曲 K.581
モーツァルト

 

 1789年、晩年のモーツァルトが親友のクラリネットの名手シュタードラーのために書き上げた、クラリネット室内楽の最高峰と謳われる傑作です。第1楽章は、弦楽器の穏やかな主題にクラリネットが華やかに応じ、気品に満ちた対話が繰り広げられます。第2楽章は、この上なく甘美で叙情性に満ちた旋律が天国的な安らぎを醸し出す、本作の白眉とも言える緩徐楽章です。第3楽章のメヌエットでは、二つのトリオ(中間部)が対照的な表情を見せ、素朴な味わいの中に深い情感を覗かせます。そして第4楽章は、軽快な主題による変奏曲。クラリネットと弦楽器の各奏者が主役を交代しながら、最後は喜びあふれる終曲へと向かいます。全編を貫くのは、晩年のモーツァルト特有の澄み切った哀愁と、慈しむような温かさです。イ長調の透明な響きの中で、五つの楽器が親密に語り合い、音の粒子が溶け合う至福のアンサンブルをどうぞご堪能ください。 (C.Kumada)
- Members -
Ensemble ・ Strauss II.
今回の「春の歌」は、フェッセルン・アンサンブル史上最大の超にぎやかで贅沢な編成です。まずはソプラノ山本さん。ここ3年連続でご出演いただき、そのたびにこちらの要求もさりげなくレベルアップ。今回はなんと11の楽器を背に受けての熱唱です。どうか負けずに(いえ、きっと軽々と)美声をホールいっぱいに響かせてくださるはずです。管+ピアノは、長年苦楽を共にしてきた杉村さん、瀬尾さん、手嶋さんの安心感に加え、今回初参加のクラリネット大屋さん。橋本の大学オーケストラの後輩で、「出ませんか?」に二つ返事。この即答力、ありがたい限りです。弦は92年入学組(橋本と同期)の熊田さん、宮木さん、西川友理子さん、喜代美さん。35年近く一緒に音楽をしてきた仲間で、言葉がなくても「そこ、そうだよね」が通じる関係。チェロ森田さんもすっかり常連組です。そしてヴァイオリン西川太翔さん、チェロ永山さんはなんと子ども世代。親世代&親と同じ舞台に立つ奇跡に、音楽って本当にすごい、が伝わるはずです。(Y.Hashimoto)
Quartetto ・ Casamorata
カサモラータというほぼ無名の作曲家の曲と戦うために集った今回のメンバー。クラリネットの橋本氏は、ほぼ無名なこの曲を探し出し、奇跡的に楽譜をゲットするという運命的なイベントを発生させた。今も楽譜提供の研究者とやりとりしつつ、このチームだけでなくフェッセルン・アンサンブル全体を牽引。ホルンの杉村さんは、もうすっかり常連となった今回唯一の金管楽器奏者。和装や茶道といった色々なものに挑戦するというバイタリティを持ち、今回もチームメンバー最遠方の地から忙しい日常をぬって参加。ピアノの手嶋さんは、長い参加歴の中でも初めて管楽器隊とのチームに。クラ、ホルン、バソンといった珍編成でのアンサンブルにドキドキしつつも、曲の厚みを形成する重要なポジションを担当。バソンの瀬尾は、第12回から参加継続中。珍しいオリジナル編成&無名で音源もない曲、というマニア心をくすぐる選曲に、マニアな楽器使用&アンサンブル楽譜収集家として、にんまりしながら格闘。(T.Seo)
Quartett ・ Rabl
ピアノを担当されるのは木田さんです。初めて木田さんの演奏を聴いたとき、なんて情熱的で素敵な演奏をされる方なんだろう、と思いました。「弾けないです〜」と言いつつも、たくさん練習して毎度リクエストに応えてくださいました! ヴァイオリンを担当されるのは宮木さんです。宮木さんは富山にお住まいで、合わせのたびにはるばる来てくださいます。とても真面目な方で、合わせに参加できないときは毎回録音を聴いて練習を重ねておられるそうです!クラリネットを担当されるのは橋本さんです。橋本さんはフェッセルン・アンサンブルの主催者で、運営のお仕事もしてくださっています。演奏面においても常にディレクションを出してくださり、もちろんクラリネットの腕もピカイチ。頼れる“パパ”です! チェロを担当するのは私、永山です。幼い頃このフェッセルン・アンサンブルに憧れて、12歳でチェロを始めました。チェロを弾いて約9年、今この場所で演奏できることを心からうれしく思います!(I.Nagayama)
Quintett ・ Mozart
フェッセルンアンサンブルの演奏を初めて聴いたのは10年前の20回目の定期演奏会でした。感想は、プロやん!プロの集団やん!でした。その翌年、千穂ちゃんからチェロを探してて~と誘われ、なんだかんだでど厚かましく今に至ります。そんなフェッセルンのリーダー、パパさんからは逃げない、引かない、隠れない、良い女ぶって、この上なく美しく…毎回様々な要求が飛んで来る。同じ人間やから出来るはず!と最大公約数で励ましてくれます。1stヴァイオリンの宮木さん。マラソン大会にも参加するストイックさで、様々な要求に応えるべく弾き方を研究してきて尊敬(富山県在住!)。2ndヴァイオリンの千穂ちゃんは5年ぶりの復帰。お休みの間には整体の勉強に、お笑いライブにと忙しく飛び回り、今は整体師としても活動し始めていて、色々と健康へのアドバイスもくれます。ヴィオラのキヨちゃん。控えめでありながら演奏ではキレッキレで低弦も支えてくれる、パパさんと共に屋台骨です。(N.Morita)
「アマチュアこそ音楽の本道」
小説家・芥川龍之介の三男で、昨年生誕100年を迎えた
作曲家・芥川也寸志の言葉です。
練習の積み重ねから得られる音楽への共感と感動を追
求し、「アマチュアだから仕方ない」という言い訳を嫌い、
常により良い演奏を目指す。一方で、経済的な制約に縛
られないからこそ、プロにはない自由な発想や純粋な精
神を発揮できる存在として、アマチュアの音楽活動を大
切にしていました。
也寸志のもう一つの名言とされるのが
「音楽はみんなのもの」
という言葉です。
この言葉は、私がこれまで出会ってきた多くの名音楽家
に共通して流れている精神でもあります。
私に音楽を教えてくれた人たちは皆、「楽譜を前にして
演奏者が果たすべきことは、プロもアマチュアも変わらない。
楽譜に、音楽に、誠実であれ」と教えてくれました。
私たちはプロではありません。しかし、その精神を受け取
り、次の世代へつないでいく一人の音楽家でありたいと
願っています。
そんな私にクラリネットのみならず音楽について本当に
いろんなことを教えていただき、長年練習におつきあい
いただいているクラリネット奏者の永瀬和彦さん、出演し
てくれている子ども世代と同じぐらい運営に協力しても
らっている子どもたち、演奏のみならず膨大な量の裏方
仕事を頑張ってくれている喜代美さんにも多大なる感謝
の念が尽きません。
こういった人たちに支えられてここまで来られたことは本
当に奇跡です。
次回31回目も、皆さんとともに
音楽の中に身を委ねることができれば、
これ以上の喜びはありません。