program2006

- Greeting -
 今年、ついに第10回を迎えることになりました。こうして無事10回目を迎えられたのは皆さんのおかげだと感謝しております。10年前は震災の神戸で何かをしたいと思って始めたものが、脈々と受け継がれいまだ灯がともっていることを本当にうれしく思っています。
 今回のプログラムはかなり積極的です。タイトルは「源」。そう音楽の”源”であり、私たちの演奏会のエネルギーの”源”でもあるわけです。本日の演奏会で取り上げた作曲家は、バッハ・モーツアルト・ベートーベン・ブラームスと音楽の教科書で必ず見かける超有名な作曲家たちです。また曲も、それぞれ有名な曲ばかりです。有名作曲家の有名な曲を演奏するというのは実はかなり勇気がいります。特に私たちのようなアマチュア演奏家(一部プロの方もおられますが)にとって、超一流の数多のプロが何度も演奏をしたりレコーディングをしたりした曲は、聞き手にとっても一つの形ができあがっておりミスや詰めの甘さがすぐに露呈します。
 そんな曲をあえて10周年に選びました。現代まで続く音楽の形をバッハ・モーツアルト・ベートーベン・ブラームスが作り上げたことは間違いありません。いわば音楽の”源”です。その小さな源がいくつも集まり大きな流れとなるまでいろいろな人の手を通過してきているはずです。その泉にあえて挑戦するわけですから、非常にプレッシャーがかかると同時に楽しみでもあるわけです。
 一方で、私たちがこの演奏会を続けている”源”を今日の演奏会で表現して皆さんに伝えられればなぁと思っております。10年間続いてきたのは間違いなく、今日来られている皆さんを始めこれまでの過去の演奏会に足を運んできて頂いた多くの方々がおられるからです。延べ人数でいうと軽く1000人は超えています。延べ1000人の方がたに私たちの演奏を聴いて頂いて、私たちの演奏を楽しんで頂いたことに大きな感動を覚えます。それが、私たちが演奏活動を続けている”源”であります。
 また、メンバーそれぞれの家族に支えられていることも大きな”源”です。家族の協力無くして演奏活動が続くことは不可能です。私たち演奏活動を続けていることが、自分の家族や子供たちへの一つの愛の形であり、メッセージでもあると思います。そんな私たちの活動を子供たちが見て何かを感じてくれればそれはとても大きな”源”になると思っています。
 私たちにとってもこの演奏会は一つの大きな資産・財産です。近年のコンピューター技術や通信技術の発展により、人との連絡もメールになり、ものを買う時もインターネットで注文し、お金という概念まで単に通帳記入される数字の羅列に過ぎず、どんどん”実体”が見えなくなってきています。つまり”実体”が目の前になくても、触れることができなくても、そのこと自体に深い意味はなく、私たちは単にあるはずだと信じているだけに過ぎません。そんな時代に、「お客さんが来て頂き、確かに音楽を奏でた。」という実体に伴った経験は他では得難いものです。
 本日はお忙しい中、本当にご来場下さいましてありがとうございます。どうか心行くまで楽しんでください。そして、決してコンピューターの世界では得ることのできない「実体験」をしてください。
- Program -
J.S. バッハ
 J. S. Bach (1685-1750)
2台のヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調 BWV1043
Concerto for Two Violins and Strings in D minor, BWV 1043
I .Vivace
II .Largo ma non tanto
III .Allegro
ヴァイオリン :宮木 義治
ヴァイオリン :小山 昇子
ピアノ :須山 加奈子
L.v. ベートーベン
 L.v. Beethoven (1770-1827)
ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第5番 ヘ長調 作品24 「春」
Sonata for Violin and Piano, No. 5 in F major, Op. 24, “Spring”
I .Allegro
II .Adagio molto espressivo
III .Scherzo: Allegro ma non troppo
IV .Rondo: Allegro ma non troppo
ヴァイオリン :宮木 義治
ピアノ :須山 加奈子
< 休憩 ~ Intermission ~>
W.A. モーツアルト
 W. A. Mozart (1756-1791)
ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第21番 ホ短調 K.304
Sonata for Violin and Piano, No.21 in E minor, K. 304
I .Allegro
II .Tempo di Menuett
ヴァイオリン :水谷 牧子
ピアノ :江本 直子
J. ブラームス
 J. Brahms (1833-1897)
ピアノ、クラリネットとチェロのための三重奏曲 イ短調 作品114
Trio for Piano, Clarinet and Cello in A minor, Op.114
I .Allegro
II .Adagio
III .Andantino grazioso
IV .Allegro
クラリネット :橋本 頼幸
チェロ :梅本 直美
ピアノ :江本 直子
- Program Notes -
2台のヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調 BWV1043
バッハ
 10歳にして父母を失い孤児となったバッハは、生涯ドイツのあちこちを移り住み,オルガン奏者やヴァイオリン奏者などの職を得ながら作曲活動を行っていた。この二重協奏曲は30代を過ごしたベルリンに近い町ケーテンで書かれた。バッハというとオルガン曲や宗教カンタータを数多く残し宗教音楽家というイメージが強いが、ケーテン時代にはこれらの宗教曲はほとんど書かれず、もっぱら器楽曲が作曲されている。これは当時仕えた宮廷の方針であった様だが、バッハ自身この時代が人生の中で一番幸せだったと残している。ブランデンブルク協奏曲や無伴奏チェロソナタなどもこの時代に作曲されておりバッハの曲を聴き始めるにはこの時代の作品はおすすめである。二重協奏曲のオリジナルの演奏形態は二本のソロヴァイオリンとヴァイオリンとビオラから成る弦楽アンサンブルそして通奏低音のチェンバロで構成されているが、本日の演奏はソロヴァイオリン以外のパートをモダンピアノで演奏する。古楽器で演奏されるものと違った雰囲気を楽しみいただけることと思う。 (Y.Miyaki)
ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第5番 ヘ長調 作品24「春」
ベートーベン
 このソナタが作曲されたのは1801年でベートーベンはこのとき30歳。このころ時すでに作曲家の生命とも言うべき耳の病気に悩まされており、家庭内のいざこざもあって、精神的にはかなり辛い日々を送っていた…って本当か?と疑いたくなるような流麗で喜びに満ちた曲である。同じベートーベンのヴァイオリンソナタ「クロイツェル」に見られるような、名人芸的なパッセージは無く(それでも簡単ではないのだが…演奏者のつぶやき)スラーを多用した流れるような曲構成である。その分ピアノは割を食ってテクニカル的に大変であるが^^;。この曲で苦悩の時から逃避したであろうベートーベンの様に今日の演奏を聴いてほんの一瞬でも穏やかな気持ちになって頂けたら、演奏者としてこの上ない幸せである。 (Y.Miyaki)
ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第21番 ホ短調 K.304
モーツアルト
 今年はモーツアルト生誕250年。そんなわけで世界あちこちで催しがあるようです。モーツアルトというのは不思議な魅力を持ち、いまでもあせることなく世界中の聴衆を虜にする。モーツアルトのヴァイオリンとピアノのためのソナタは、どの曲もそうであるが、どうもピアノがメインで、ピアノの引き立て役をヴァイオリンがするという構成でかかれているように感じる。モーツアルト自身ピアノのほかヴァイオリンやビオラも演奏していたはずであるが、彼のヴァイオリンとのソナタにとってヴァイオリンはあまり重要でなかったのだろう。しかし、天才が見つける音というのは何故こんなふうになるんだろうか、とため息が出るような美しい響きをもたらす。ヴァイオリンソナタはただひたすら流れるように、温かい水の中を無意識に漂っているかのような感覚をもたらす。前曲のベートーベンのスプリングソナタもそうである。何も考えず、ただゆったりとしたその美しい響きの海の中を漂ってみるのも、こういった曲を楽しむ一つの方法だと思いを新たにする。 (Y.Hashimoto)
ピアノ、クラリネットとチェロのための三重奏曲 イ短調 作品114
ブラームス
 なんだろう。この美しさとためらいのなさは。ブラームスという人物は非常に複雑な人だ。第一交響曲を書くのに21年の歳月をかけたのは非常に有名な話しだ。旋律を作った後にただひたすら低音を練り上げるのに膨大な時間をかける。モーツアルトのような天才思いつき型と違い、努力とためらいの作曲家である。しかし、最晩年に作曲されたこのトリオを含めたクラリネット室内楽4曲(ソナタ2曲と五重奏曲)はそんなためらいも積み重ねもなく、ただ思うままに筆を動かした、いわば”開き直った”ような作品になっている。ブラームスは、作品111の弦楽五重奏曲で創作力の限界を感じ、1890年秋に引退するつもりだったらしい。しかし、その引退に待ったをかけたのが名クラリネット奏者ミュールフェルトとの出会いである。曲は58歳(1891年)に書かれている。ピアノとチェロとクラリネットのそれぞれの魅力を余すところ無く表現したこの曲は間違いなく名曲である。それもブラームス自身が創作力の限界を感じてからの作品というのが実に皮肉なところである。 (Y.Hashimoto)
- Members -
梅本 直美(Naomi UMEMOTO); チェロ
4年ぶりの復活を果たして頂きました梅本(旧姓 有澤)さん。お帰りなさいとばかりに、10年前に始めての演奏会で運命の出会いをしたブラームスのトリオを再挑戦することになってしまいました。この10年間に6回目の最古参の一人です。その間に結婚をして妻になり、子供も生まれて母になり、一回りも二回りも深みが増しているのです。なので、今日の演奏はその重みを感じた深みのあるブラームスになるに違いない。と勝手に思っている次第です。
江本 直子(Naoko EMOTO); ピアノ
彼女はピアノの先生です。その細い腕からは想像もできないパワフルな音楽を奏でます。意外性ついでに紹介していきますと
 若いけど落ち着いている
 ぽそっと話す内容がけっこうおもしろい。
 おっとりしたお嬢さんに見えるんだけど、ピアノを弾くときは  頼りがいあってかっこいい。
・・・です。 ソナタは自信ないのでしたくなかった私が、この伴奏ならやってみたいと思わせてくれた彼女の腕前をぜひ皆さん聴いてみてください。
小山 昇子(Shoko KOYAMA); ヴァイオリン
彼女は、一見大人しそうで「TEAM 30(3人とも四捨五入して30歳だから)」の中でも唯一の2枚目。かと思いきや、実は酒豪でビールやらワインやら家で飲んでる強者です。しかも一人で。でもそんな小山さんですが、純粋で汚れを知らない少女の様な一面も持ち合わせている可愛らしい方です。りくろーおじさんで働きながら、「1日2時間半練習」を実行している努力家でもあります。一時期ヴァイオリンを辞めていたそうですが、そんなブランクは感じさせません!
須山 加奈子(Kanako SUYAMA); ピアノ
彼女は東京の音大をでていてとてもピアノがうまいです。いろんなコンクールに出てて、賞もとっているみたいです。初合わせのときもいきなり出した楽譜で「無理ですよ?」って言ってさらっと弾いてくれました。そんな彼女は今、セレブレッティーになることを夢見て某設計事務所で事務のお仕事をしながら某音楽事務所でピアノを教えています。某設計事務所や某音楽事務所ってどこかって?その答えはこのきっとこのリーフレットのどこかにあるはずです。
橋本 頼幸(Yoritaka HASHIMOTO); クラリネット
彼のメンバーに向けて配信されるMLは、ホリエモンにカツを入れたりPiTaPaの説明から使い心地まで教えてくれてる。またある時は、新TVドラマの評論をしてくれるのは結構参考になったりと、一体何者なんだという感じでしょうが、私の知る限り、クラリネットを吹きながら、学生に講義をしながら、設計事務所を営んでおられる。事務所はグランドピアノ付き練習室完備だそう。優雅そうだが、凡人には全く考えられない忙しさのようで、一体いつ寝ているのか?どこにドラマを見る時間があるのか?この先何を企んでいるのか?未知な部分をたくさん含んでいそう。今後も楽しみな人物です。
水谷 牧子(Makiko MIZUTANI); ヴァイオリン
今回モーツァルトのヴァイオリン・ソナタを演奏される水谷さんは私にとって、なごみ系おねえさんです。どんなときでもソフトな口調で、いつも私にとても優しく接してくれます。また、メンバーの中には小さいお子さんをお持ちの方が数名いらっしゃるのですが、どうやら水谷さんもその中のお一人のようです。子育てでお忙しいにも関わらず、主婦業にお仕事に、そしてヴァイオリンの練習にとしっかりこなされていてホントにエネルギッシュな方です。皆さんご一緒になごみましょう。
宮木 義治(Yoshiharu MIYAKI); ヴァイオリン
私は今回初参加で宮木さんとは一度会っただけでまだ良く知らないのですが…第一印象はすごく熱心な方ですね。すごくびっくりした事は下関から来られている事です。あんな遠くから仕事や家族の事、他、色々大変なのにそこまで出来るってことはすごい事だと思いました。それと橋本さんから楽曲紹介の件でメールが来たとき宮木さんが書くと言ってくれて密かに「良かった~」とホッとしていました。ありがとうございます。そういううわけでまだ全然宮木さんの事を知らないのですがこれからもっと知りたいと思っています。
“正直なことをいうと”
 年々演奏会を開催することがしんどくなってきます。いろいろな原因があると思います。それぞれに家庭を持ち、仕事も責任が増え、いまがもっとも働き盛りだから、とか、自分の時間をうまく取れなくなってきている、とか。
 よく10年できました。本当にすごいと我ながら思っております。「何故楽器を演奏するのか?」と聞かれても私には適切な答えは思いつきません。しかし、自分が楽器を演奏することで何かを表現したいということもあるのかもしれませんし、単に無条件で好きなだけかもしれません。ただ一つだけ言えるのは、楽器を演奏をした人にしか見えない景色があり、それをみたいと思っているのは確かです。
  同じようにこの場に来て頂いた人にしか見えない景色もあれば、演奏している側としては限りなく幸せです。
実体の見えにくい時代に、本当に私たちの資産になっています。