program2005

- Greeting -
 早いもので1997年1月17日に夙川公民館で演奏会を始めて9年目を迎えました。97年の演奏会では震災の神戸で、個人的に非常に思い入れの深いブラームスのソナタを取り上げて、いろいろな思いを込めて、「最初で最後になるかもしれない」と言う決意のもと必死に乗り切りました。それから9年。今もいろいろな思いを込めて演奏会をしたいと思っています。未だに必死なのは当時から変わっていません。
 今回の私たちの伝えたい思いは「風景の音楽 Note of Scene」です。今回取り上げた曲はいずれも非常に色彩豊かな、まるで風景を切り取ったかのような音楽を集めました。ある物語を題材に書かれた曲、戯曲の付随音楽を器楽作品に転用されているもの。また、油絵のような水彩画のような曲、ピカソのような抽象的な表現、いろいろなシーン(Scene)を書き留めた(Note)曲を集めてみました。
 毎年演奏会の曲を決め、演奏会のコンセプトやテーマを決め、それらにふさわしいタイトルをつける作業はとても大変です。特にタイトル付けは、思いつくときはすぐに思いつきますが、思いつかないときは時間がかかるわりにたいしたことがないものです。そんな中、今年のタイトルは我ながら「いい」と思っています。あまり深く考えることなく、あっさり思いついたものなのですが。
 個人的なことですが、私は建築の設計事務所を営んでいます。新築やリフォームの設計をします。分譲マンションの管理運営相談や欠陥・トラブル建物の相談もしております。いずれの仕事もそうなのですが、いい案が思いつき、仕事がはかどるときはどんどん進みます。しかし、できないときは何日かけても図面ができあがらないものです。同時に、第一印象というのは意外に間違っていません。「この敷地に家を建てたい」という相談があったときに、敷地を一見した印象で「こんな感じの家になるのかなぁ」とぼんやり浮かんだ形が最終形になることが意外に多いものです。
 私は建築という仕事を通して「シーンを書き留める」作業をしますが、作曲家はそれを「音楽」にします。写真家は写真に、画家は絵に、小説家や詩人は文字に「書き留め」ます。こういった行為は特別に意識することなく我々も行っています。そんな特別なことをやっていないと思われるかもしれませんが、誰もがこの「書き留める」という作業をしていると思います。
 本日は皆さんにその逆をして頂きたいと思っています。音楽家たちがある風景を音楽に書き留めました。その音楽を聴いて音楽家たちが見た風景に思いを巡らせていただければと思います。それが今日の演奏会のテーマです。どうか最後までお楽しみいただき、いろいろな風景でいっぱいにしてお持ち帰り頂きたいと思います。
- Program -
C.シャミナード
 C.Chaminade (1857-1944)
フルートとピアノのためのコンチェルティーノ op.107
Concertino for flute and piano op.107
フルート :舩橋  順
ピアノ :手嶋 有希
F.プーランク
 F. Poulenc (1899-1963)
クラリネットとピアノのためのソナタ
Sonata for clarinet and piano
I .Allegro tristamente
II .Romanza
III .Allegro con fuoco
クラリネット :橋本 頼幸
ピアノ :江本 直子
< 休憩 ~ Intermission ~>
L.ボッケリーニ
 L. Boccherini (1743-1805)
2本のヴァイオリンのためのデュオ第2番 作品5
Two duets opus5 for two violins
I .Allegro giusto
II .Larghetto
III .Minuetto
IV .Rondo
ヴァイオリン :宮木 義治
ヴァイオリン :水谷 牧子
J.ムーケ
 Jules Mouquet (1867-1956)
ソナタ“パンの笛” op.15
Sonata "La Flute de pan" op.15
I .Pan and the sheperds :「パンと羊飼いたち」
II .Pan and the birds    :「パンと小鳥たち」
III .Pan and the nymphs :「パンとニンフたち」
フルート :舩橋  順
ピアノ :北出 優子
F.プーランク
 F. Poulenc (1899-1963)
「城への招待」~クラリネット,ヴァイオリンとピアノのための三重奏曲 FP138(ジャン・アヌイの戯曲に基づく劇付随音楽)
L’invitation au chateau musique de scene pour la piece de Jean Anoulih(1947) pour clarinette, violon et piano
クラリネット :橋本 頼幸
ヴァイオリン :宮木 義治
ピアノ :江本 直子
- Program Notes -
フルートとピアノのためのコンチェルティーノ op.107
シャミナード
 シャミナードは幼い頃からビゼーに才能を見出されていましが、19世紀後半のパリ音楽院は女性の入学を認めておらず、プライベートで各師に師事し音楽を学びました。そんな彼女の音楽には、女性ならではの甘美で洗練されたメロディが多く使われ、この曲も存分にフルートを活躍させて華やかな効果を上げており、乙女心の夢とロマンの世界を思わせるような作品です。後半に登場するムーケも同じ19世紀後半のフランスを生きた作曲家です。屋外に創作の場を移し、自然光のもとで光溢れる明るい絵画を描いた印象派の画家、モネやルノワールらもまた同じ時代を生きていました。当時フランスでは産業革命に始まる近代化の波に乗っており、明るい雰囲気と曲調も時代背景と無関係ではないかもしれません。 (J.Funahashi)
クラリネットとピアノのためのソナタ
プーランク
 このソナタは、プーランクの最晩年に作曲され、初演は没後の1963年追悼演奏会にベニー・グッドマンとレナード・バーンスタインによって演奏されました。これほどいろいろな要素を15分程度のソナタによく詰め込めたなぁと感じる作品です。2楽章は実にメランコリックで甘く、時に激しく、1楽章は激しい起伏と甘さを同居させ、3楽章は活気のあるリズミカルな音楽になっています。実はこの曲は近現代のソナタの中でも特に人気があります。近現代のクラリネット曲はテクニカルに走ったり、奇をてらったりする中、旋律もはっきりし、わかりやすいながらも多彩な魅力がちりばめられているからでしょうか。その分、奏者には様々なテクニックが要求されますが、聞く側も楽しめるからかもしれません。 (Y.Hashimoto)
2本のヴァイオリンのためのデュオ 作品5
ボッケリーニ
 ボッケリーニは1743年2月19日イタリアに生まれました。幼い頃から音楽家の親から英才教育を受け、若くしてチェリストそして作曲家としての名声を得ていますがいわゆる3Bやモーツアルトなんかに比べるといまいちぱっとしません。それは彼が当時の音楽会の中心地から遠く離れたスペインのマドリードに移住したことや(すこし変わり者?)、仕えた王様の意地悪で曲を出版できなかったりしたことが関係しているようです。とはいえ、評価する人によってはモーツアルトよりも上というくらい瑞々しい旋律を書く作曲家の若々しい18歳の時のVn2重奏ですから、聴いていただいた皆さんを別世界へ誘うことができるでしょう・・・多分。 (Y.Miyaki)
ソナタ“パンの笛” op.15
ムーケ
 パンはギリシャ神話の牧羊神で、上半身は人間で頭の角と下半身は山羊とされています。強面で大酒飲み、「パニック」の語源とも言われるパンですが、普段は羊を守る役目のため野原を駆け回ったり、小川のほとりでまどろんだり、気ままな暮らしをしています。また、シュリンクスという笛の名手としても有名です。この笛は失恋した相手の妖精が変身した葦で作られたと言われていますが、パンは彼女を思い出す度にその笛を吹き、寂しい心を慰めたという繊細な一面も持ちます。この曲ではそのようなパンの姿が生き生きと、まるで絵画のように描きだされています。
1楽章:冒頭から心地よさそうに歌いだすメロディが転調を重ね、牧歌調の穏やかな部分や小川の流れを思わせる部分が次々と歌われます。
2楽章:小鳥の歌声を笛に模した自由な音楽となっています。どことなく寂しさを感じさせながらも、やさしく語りかけてくる雰囲気をもっています。
3楽章:ニンフは山や川、木などの精霊で若く美しい女性の姿をしています。パンは、美しいニンフたちを見つけると、追いかけごっこをしたり、戯れたりして楽しい一時を過ごしますが、ここではそのような光景が歌われます。(J.Funahashi)
「城への招待」~クラリネット,ヴァイオリンとピアノのための三重奏曲 FP138(ジャン・アヌイの戯曲に基づく劇付随音楽)
プーランク
 この曲は1947年から48年にかけてフランスの劇団四季によって510回のロングランを樹立したジャン・アヌイの人気戯曲「城への招待」の劇付随音楽として1947年に作曲されました。のちに演奏会用の器楽作品に転用されています。戯曲は、よく扱われる題材である「純粋と世俗、富と貧困の対立」を様々な角度から表現し、巧みに絡めながら、クライマックスに持ちこむスタイルです。実に子気味のいい、テンポのいい作品です。これにつけられた音楽も実にかわいいく上品です。しかし、一方で俗っぽく皮肉的な響きも同居しています。曲は、プーランク自身もあまり深く考えて練ったというよりも、筆の進むまま作曲したような印象を受けます。日本でも1956年(昭和31年)に約1月、東京-大阪-名古屋で上演されています。
本日は少し変わった趣向でこの曲を楽しんで頂きたいと思います。(Y.Hashimoto)
- Members -
江本 直子(Naoko EMOTO); ピアノ
今回初参加の者です。まだまだ経験浅いひよっこですが、室内楽狂な私にとっては本日の舞台は待ち遠しくて仕方ありませんでした。といっても私、コツコツ型ではなく一夜漬けタイプ。練習も切羽詰らないと中々する気になれない人間です。 そしてこの自己紹介の原稿も〆切日30分前から作成中。ってもう日付変わってる~! すみません…。
北出 優子(Yuko KITADE); ピアノ
昨年までは聴く側としてこの演奏会を毎年楽しみにしてました、今回初出演の北出です。室内楽ははじめてですが、私もやってみたいな…と思ってましたので本日が楽しみでした。と言うものの毎日忙しくピアノを弾く時間がなく、どんな演奏になるかはわかりませんが楽しんで弾きたいと思います。忙しさが勝ってしまい年々ピアノや楽器と疎遠になり音楽を楽しむ時間が少なくなってますが、昨年から琴を再び始め、月2回お稽古にも通い楽しんでいます。
手嶋 有希(Aki TESHIMA); ピアノ
昨年までピアノを担当していた永山(梅田)愛美さんの友人の手嶋有希です。今回、愛美さんに紹介いただき参加させていただく事になりました。今まで演奏会を何回か聴きに来て、他の楽器とアンサンブルが出来るなんていいな~といつも思っていたので、実現出来て感謝しています。シャミナードのコンツェルティーノ、とても美しい曲です。曲の美しさとフルートの音色を引き立てられる演奏が出来れば…と思います。
橋本 頼幸(Yoritaka HASHIMOTO); クラリネット
いつ仕事をしているのですか?」「いつドラマを見ているのですか?」「ちゃんと寝ていますか?」最近よく聞く私に対する質問です。最近はいつもにもましてとても忙しく過ごしています。だいたい私はたいていのことでは忙しいと思わない方なのですが、ここ最近は少し思うようになりました。これも年のせいかもしれません。しかし、本当はまだまだ若い、と自分では思っています。建築設計の仕事を”こっそり”やっているのですが、大学に行ったり、クラリネットを吹いたり。今日は皆さんとかけがえのない時間を過ごせたと思えるような一日にしたいと思っています。
舩橋 順(Jun FUNAHASHI); フルート
静岡の東の方に引っ越して、経済的・時間的・肉体的理由からいつまで続けられるかなぁと思っているうちに、今年でもう4年目となりました。引っ越す直前のこの演奏会でプーランクのソナタを吹いて以来、ソナタはもうちっと実力と自信をつけてからと思っていましたが、今回、満を持して、いやいや冗談、まだまだとは思いながらもソナタをやることになりました。しかし、成り行きで2曲もやることになってしまいました。無謀なのは承知の上ですが、頑張ります!
水谷 牧子(Makiko MIZUTANI); ヴァイオリン
昨年育児休暇を終え、仕事と子育てのペースもつかめてきたころ、復帰のお話を頂き、再びこの演奏会に参加してます。元来なまけもので、時間があれば自発的に練習するということができないので、本番がないと楽器ケースは閉じられたままでした。今回はアンサンブルの中でも最も小編成の2つのバイオリンのための曲をすることになってしまい、アラが目立つのがとっても恐いのですが、お客様に冷汗をかかせないよう、まず自分が楽しんで演奏したいと思ってます。
宮木 義治(Yoshiharu MIYAKI); ヴァイオリン
早いものでこの演奏会の参加回数も今回で9回を数えました。この9年を振り返ると、随分と身の回りの環境が変わったな~としみじみ感じます。最初の演奏会のときは大阪で学生してましたが、そこから結婚、学位取得、就職して富山へ移住、息子の誕生と気がつけば30過ぎの子持ちのオッサンになってました。ただここまでこの演奏会を続けてこれたのも、素晴らしい仲間があってことのことです。この幸せな状況をかみしめつつ、本日の演奏に望みたいと思います。ただ、最近子供の抱っこのしすぎで右肩痛をわずらっています。演奏中に肩が固まってしまったらごめんなさいね。
“実は「第九」です。”
 早いもので今年で9回目を迎えてしまいました。というわけで、実は第九なのです。ベートーベンが交響曲を9曲しかかけなかったことから、その後のロマン派の交響曲の作曲家達は9番目を特に意識し、トラウマのように10番目の交響曲をかけなかった人がおおいのです。
 諸説ありますが、9曲書くのに相当な年月がかかるからでしょう。それが偶然に重なっただけと思います。さて、私たちは作曲する側ではなく演奏する側です。しかし、9回目に至るまでに相当のエネルギーを費やしてきているのもまた事実です。メンバーもいろいろな環境の変化の中、「みんなと合わせるのが楽しい」「お客さんに喜んでもらいたい」という思いだけで、ただがむしゃらに突き進んできました。
 私たちには第九のトラウマはないでしょう。
皆さんが応援してくれる限り。みんなが集まる限り。