program2002

- Greeting -
 「音楽とは何か」いきなりではありますが、時々私はこんな ことを考えます。本日のテーマは「いとおくゆかしけれ ど・・・」です。”おくゆかしい”を辞書でひくと「その奥にあ るものに心がひかれる感じである。その先が見たい、聞きた い、知りたい。(国語大辞典小学館1988)」となっています。 “いと”は「たいへん、非常に」と言った意味です。そして もう一つのテーマは”an innner essence”です。これを日本 語にすると”内に秘められた本質(真実)”といったところで しょうか。
「音楽」とは実に”一過性”の強いものです。今でこそ音楽 は居ながらにして聴くことができますが、本日取り上げるよ うな18 世紀や19 世紀始めに音楽を聞くことは大変なこと だったでしょう。自分で演奏するか、演奏家を呼ぶか、わざ わざ出かけないといけません。当時音楽を聴くと言うことは とても贅沢なことだったでしょう。作曲家も録音できない自 分の作品をいかに印象づけるかに全力を注ぎます。何度も同 じ旋律を奏でたり、変奏曲にしたり、実に様々な工夫をして います。”一過性の強いものである”ことを強く意識して。
そんな中で数人の室内楽は作曲家自らが演奏することがで き、より強く自身の想いを伝えやすい分野です。一方でよほ ど有名な室内楽曲でない限り、その曲にまつわるエピソード や作曲家の想いなどはあまり知られていません。しかし、楽 譜は雄弁に語ります。私たちは楽譜を通して作曲家が伝えた かった想いを感じることができます。そしてそれを聞き手に 伝えることができます。また、室内楽では楽譜に作曲家の指 示が少ないのも多く、聞き手の反応に応じて即興性にまかさ れている部分もあります。
“一過性”と”即興性”。まさに偶然にゆだねられたような 形態をとりながら輻輳する感情。作曲家の想い、演奏者の想 い、聞き手の想い、それらを響きだけで伝えあいます。実に “おくゆかしい”と思いませんか?音楽は、作曲家と演奏者 と聞き手がお互いに作り出すものです。室内楽は特にその三 者の距離が近く、各々の想いがぶつかり合って一つの音楽を 作りあげていくことがたやすいです。それが室内楽の最大の 魅力です。音楽は生で体験して初めて本物になるような気が します。そして音楽は、たった1度きりで2度と体験できな いものです。これこそ究極の贅沢だとは思いませんか?それ と同時に、「いとおくゆかしけれど」それを得るのはとても 困難で、同時にかけがえのないものだと思います。
本日はご来場いただきまして誠にありがとうございます。 最後まで、どうぞごゆっくりお楽しみください。そしてたっ た一つの音楽を作り出すメンバーの1人になってください。” 今”と”生”を楽しんで。
- Program -
ハイドン
 Joseph Haydn (1732-1809)
ロンドントリオ 第1番 ハ長調
The London Trios for Flute, Violin and Violoncello
I .アレグロモデラート: Allegro moderato
II .アンダンテ: Andante
III .フィナーレヴィヴァーチェ: Finale Vivace
フルート :舩橋 順
ヴァイオリン :宮木 義治
チェロ :有澤 直美
モーツアルト
 Wolfgang Amadeus Mozart (1756-1791)
ピアノ、クラリネット、チェロのための三重奏曲 変ホ長調 K.498「ケーゲルシュタット」
Trio for Piano, Clarinet and Violoncello in E-flat major, K.498 “Kegelstatt”
I .アンダンテ: Andante
II .メヌエット- トリオ: Menuetto – Trio
III .ロンドアレグレット: Rondeaux. Allegretto
クラリネット :永山 烈
チェロ :有澤 直美
ピアノ :梅田 愛美
< 休憩 ~ Intermission ~>
モーツアルト
 Wolfgang Amadeus Mozart (1756-1791)
ピアノとヴァイオリンのためのソナタト長調No.35 K.379
Sonata for Piano and Violin in G major, No.35 K.379
I .アダージョ- アレグロ: Adagio – Allegro
II .主題と変奏
アンダンティーノカンタービレ- アダージョ- アレグレット:Thema and Variation Andantino cantabile – Adagio – Allegretto
ヴァイオリン :宮木 義治
ピアノ :梅田 愛美
ダンツィ
 Franz Danzi (1763-1826)
ピアノとクラリネットのためのソナタ変ロ長調
Sonata for Piano and Clarinet in B-flat major
I .アレグロ: Allegro
II .アンダンテソステヌート: Andante sostenuto
III .アレグレット: Allegretto
クラリネット :橋本 頼幸
ピアノ :梅田 愛美
- Program Notes -
ロンドントリオ 第1番 ハ長調
ハイドン
 古典派音楽の形式を確立したハイドンの音楽は、その円満な人柄からか、極めてメ カニックな論理性に支配されています。しかし、その論理性に豊かな色づけと楽しさを与えていて、メカニズムから堅さを取り除いた親友モーツアルトの影響をうけています。ロンドントリオ第1番はソナタ形式やロンド形式が取り入れられています。フルートとヴァイオリンが同じ音形を和音で奏したり、ヴァイオリンが積極的にフルートとの掛け合いや模倣を演じ、またチェロも部分的にそれに参加する、これらの楽器の掛け合いが絶妙で非常に楽しい曲です。ハイドンは片田舎の車大工の子で27歳になるまでほとんど記録はありません。一方モーツアルトは才能ある父に育てられ、神童といわれ幼い頃から宮廷を渡り歩きました。モーツアルトの音楽が繊細かつ優雅で都会的な印象を与えるのに対し、ハイドンの音楽が素直で素朴な印象を与えるのも、こういった人生の違いがあったからでしょう。人格者で努力の人ハイドンと奇人天才モーツアルトの音楽を聴き比べてみるのも面白いのではないでしょうか。(J.Funahashi)
ピアノ、クラリネット、チェロのための三重奏曲 変ホ長調 K.498 「ケーゲルシュタット」
モーツアルト
 この曲は、ケーゲルシュタット(当時流行したボウリングに似た遊び)に興じながら作ったといわれているため、このように呼ばれています。1976年(20才)に書かれたこの曲は、晩年のクラリネット五重奏曲やクラリネット協奏曲ほど完成度は高くありません。しかしこの曲には晩年に感じるようなもの悲しさがあります。他のモーツアルトの作品に感じられるような、突き抜けたような明るさや天真爛漫さではなく、明るく振る舞ってはいるものの、内にある悲しさや憂い、虚無感のようなものが根底に流れている感じがします。そのような、美しい旋律で飾られてはいるけれど、本当はモーツアルトはなにを感じていたのか。そんなこの曲の中に秘められた悲しさや寂しさを 感じていただければ、と思います。今回は、本来の編成(クラリネット・ヴィオラ・ピアノ)ではなく、クラリネット・チェロ・ピアノの編成で演奏します。(A.Nagayama)
ピアノとヴァイオリンのためのソナタ ト長調 No.35 K.379
モーツアルト
 モーツアルトはそれぞれ6曲から成る2集のバイオリンソナタを残した。K379のソナタは1781年(25歳)の時の作品である。この年は4年間すごしたパリを離れウィーンに定住することになり、また翌年にはコンスタンツェとの結婚がありおそらくその生涯の中でもっとも充実した、幸せな時期であったと推測されます。創作意欲にあふれたこれらのソナタは互いの楽器が複雑に絡み合って音楽が進行していく二重奏的であるという点でそれまでのソナタとは明らかに異なっています。この曲についてモーツアルトは、父レオポルドに宛てた手紙の中で「バイオリンの伴奏を持つ私のためのソナタで、昨晩11時から12時の間に作曲しました。ただ時間が足りなかったのでピアノパートしか書き上げていません。残りは私の頭の中にあります。」と述べている。何とも天才ぶりがよくわかると同時に、この曲をどう位置づけていたかもよくわかります。しかし、モーツアルトがたった1時間で書き上げた曲を私は半年かけて練習している。なんとも複雑な思いがした。(Y.Miyaki)
ピアノとクラリネットのためのソナタ変ロ長調
ダンツィ
 イタリア系ドイツ人作曲家であるダンツィは、チェロ奏者であり、作曲や指揮も手がけた。ベートーベンとほぼ同じ時代を生きているが、その生き方も良く似ている。ベートーベンと比べるまでもなく無名ではあるが、ダンツィは初期ロマン主義音楽の中では重要な位置を占める人物である。現在では全部で9曲ある木管五重奏が良く知られているが、実際には協奏曲や室内楽曲をはじめオペラと舞台音楽も多い。(と言うことを私もはじめて知った。)このソナタはモーツアルトの作品(とりわけバイオリンソナタ)に影響されている。曲の組み立て方は論理的でモーツアルトに習っているが、旋律や楽器の使い方はモーツアルトやベートーベンに比べて実に自由であり、スケールが大きい。個人的親交のあったウエーバーの作風につながるところがある。ハイドンやモーツアルトのようなメカニックで理論的な音楽(古典派)と、その後にでてくるみたまま感じたままを素直に表現する音楽(ロマン派)の両面を合わせ持っており、その意味では古典派とロマン派の橋渡し的な作品である。(Y.Hashimoto)
- Members -
有澤 直美(Naomi ARISAWA); チェロ
 有澤さんは、昨年ご結婚されて姓が変わられたのですが、私たちはつい、なじ みのある旧姓のほうでお呼びしてしまいます。(編集注:免許証の名義もまだ旧姓 だそうです。)最近も、私宛に送っていただいた郵便物に新姓のほうが書かれてあ り、一瞬誰からなのか悩んでしまいました。それはさておき、有澤さんはこの演 奏会メンバーの中では最古参の人であり、また最年長者でもあります。それゆえ 私は、有澤さんに対してだけは畏敬の念をもって接していたのですが、今回の演 奏でご一緒させていただき、だんだん彼女の顔を見るのが本当に怖くなってきて います。微笑みを湛えたその裏側で、多分無茶苦茶怒ってるんだろうな、と。こ の場をお借りして謝罪させていただきます。ごめんなさい。
梅田 愛美(Manami UMEDA); ピアノ
 梅田さんはかわいい、スタイル良し、そして落ち着いた雰囲気だけどコツコツ 頑張り屋さんです。この室内楽チームの唯一のピアニストゆえ、他のメンバーが 1曲出演のところをプログラムの3曲弾きづめです。音譜の数だってみんなの数 倍は弾いています。古典、ロマン派はもちろん近代、現代もみんながやりたいと 言えばなんでも頑張ってくれて、彼女なしには演奏会できないのでホント頭がさ がります。本日のプログラムではモーツアルトのソナタの最初のピアノは特にい い感じです。本日のピアノのある曲はピアノがメインで他はみんな伴奏のつもり です(笑)。
永山 烈(Atsushi NAGAYAMA); クラリネット
 今回私は永山烈という人物が何者なのか、ということを調べるために”Yahoo! Japan(インターネット上のデータを検索するページ)”に”永山烈”と入れて検索 してみた。すると、2件引っかかった。まず最初に出てきたのが、大阪市立大学 理学部の「代謝調節機能学(一般生理学)研究室」だった。なんだかよくわからな い研究室の名前ではあるが、どうやら彼は学部と修士の頃にここにいたらしい。 さらにそのページによると、なんと彼は1997年3月に日本植物生理学会なるも のに論文を発表しているらしいことも突き止めた。なるほど、どうりで彼は和歌 山で高校の先生(理科)をしているはず。そんな彼は本日はクラリネットを持って モーツアルトを奏でる。世界は実に不思議である。(ちなみにもう一件は、このコ ンサートのホームページでした。)
橋本 頼幸(Yoritaka HASHIMOTO); クラリネット
 我々のリーダー的存在である「パパ」は、建築関係の激務をこなしながら、一 方では大学院博士過程に在籍しており、また家に帰れば2児の良き父である。そ れに加えて演奏会の練習もこなし、我々の演奏にアドバイスをし、また練習場所 の確保から演奏会の手はずまで全て整えてしまう(感謝感謝)。いったい毎日ど んな生活を送っているのか凡人の私には全く想像できない。 そんな多忙な彼は今年に入って楽器を衝動買いしたという。めちゃ良く鳴る楽 器で、大変気に入っているらしい。本日はかれの十八番である古典派の曲という こともあり、素晴らしい演奏を披露してくれるでしょう。
舩橋 順(Jun FUNAHASHI); フルート
 最近、彼との間に意外と共通点があることに気づいた。 (1)もう28才にもなるのに去年まで大阪で学生してたこと。 (2)学位をもらって卒業後、ようやく社会に出たと思ったら大阪から遠く離れた 田舎勤務になったこと。(編集注:ちなみに、静岡です。) (3)にもかかわらず、演奏会のメンバーとして定着し2ヶ月に1回の練習に片道 何時間もかけて大阪にやってくること。 そんな彼とは今回で2度目のアンサンブルです。今回も彼の正確で優雅なフルー トさばきで皆を導いてくれることでしょう。
宮木 義治(Yoshiharu MIYAKI); ヴァイオリン
 宮木さんは昨年4月にようやく社会人となりました。勤務先の都合で富山県に 転居してしまって、かなり遠方へ行ってしまいましたが、気合と根性?で続けて います。練習日になると、バッタ色(byパパ)の愛車に乗って、高速を5時間か けて大阪へやってきます。先日、「どうしてこの色の車にしたの?」と尋ねまし たら、「俺、緑色好きやもん」と一言。それはさておき、今日演奏する曲につい てですが、プログラムの3曲目(ヴァイオリンソナタ)にご注目下さい。彼は今 回初めてソナタに挑戦します。演奏人数が少ない分、1人あたりの負担が大き く、1つ1つの音に細心の注意を払わなくてはならないので、とても大変です。 この大曲に挑むにあたって楽器も買い換えました。年々艶が出てきた彼の繊細な 音を、耳をすませて聴いてみて下さい。きっと何か感じていただけるはずです。
私は昨年、プログラムのあいさつ文で、
「” 新しいものに常に挑戦する気持ち”と”伝統を大切にし、自分 のスタイルを守る気持ち”。そのどちらをも受け入れることのでき る自由な”心”、それが21世紀をより「ベル・エポック(良き時代)」 にするために大切なものではないでしょうか。」と書きました。
改めてもう一度(世界中の人に)言いたい。
そのどちらをも受け入れることのできる自由な”心”、
あなたにはありますか?