program2024

- Greeting -
 「フェッセルン・アンサンブル第28回定期演奏会」にご来場いただきましてありがとうございます。
 
 今回のテーマは、「anthology アンソロジー」。辞書には「詩文の美しいものを選び集めた本。詞華(しか)集」「一般に同一の文学形式ないし主題の下にまとめられた諸作家の選集を指す語。詩の場合が多く,〈詞華集〉〈名詩選〉などと訳される」などとあります。

 今回取り上げるバッハ、ヴィヴァルディ、クロンマー、ヴェルディ、シュポアの5人の作曲家は実にたくさんの曲を書いた作曲家でもあります。その5人の多くの曲から選りすぐり組み立てました。また、シュポアの6つのドイツ歌曲は6人の異なる詩人の詩に曲がつけられたものです。

 今回取り上げるバッハ、ヴィヴァルディ、クロンマー、ヴェルディ、シュポアの5人の作曲家は実にたくさんの曲を書いた作曲家でもあります。その5人の多くの曲から選りすぐり組み立てました。また、シュポアの6つのドイツ歌曲は6人の異なる詩人の詩に曲がつけられたものです。

 音楽は元々世の中にあるあらゆる音を寄せ集めて並べて重ねたものです。絵画も様々な色を寄せ集めて並べて重ねたものです。文学も文字を並べて重ねたものです。並べて重ねた”だけ”のものが、何故か人を感動させるものに変わります。
 もちろんただ無作為に並べただけではありません。美しい音や柄、言葉を作るのには、一定のルールや法則があります。ですが、そのルールを守ったすべてのものに感動するわけではありません。どの分野にも時代時代にとんでもない天才が度肝を抜くような感動的な作品を生み出します。

 昨年は生成AIが流行し、実は今日の演奏会のポスターの絵もコンピュータで生成しました。それなりのルールを守ってそれなりにできてしまいます。しかし、コンピュータで作ったことを知ったから「すごいね」という感想は持ちますが、心を動かすものにはつながりません。音楽もコンピュータに楽譜を入れれば間違いの無い入力したとおりのリズムや音程で音を作ることができますが、面白いものにはなりません。音楽も絵画も文学も、そして人生も、そこに積み重ねられた目に見えない「奥行き」があるからこそ人々の心を動かします。「奥行き」、それは人の営みが濃縮されたものにほかなりません。

 お忙しい中、ご来場・ご視聴くださいまして誠にありがとうございます。人が作る、作曲家・奏者それぞれの「深み」を感じて、心ゆくまで音楽をお楽しみください。
- Program -
J.S.バッハ
 Johann Sebastian Bach (1685-1750)
目覚めよ、と我らに呼ぶ声あり
Cantata “Wachet auf, ruft uns die Stimme” BWV 140
主よ、人の望みの喜びよ
Choral “Jesus bleibet meine Freude” BWV 147
クラリネット :永山 烈 橋本 頼幸
ホルン :杉村 由美子 木下 洋輔  バソン :瀬尾 哲也
ヴィヴァルディ
 Antonio Lucio Vivaldi (1703-1741)
ヴァイオリン協奏曲第1番ホ長調 「春」 作品8, No.1, RV269
Violin Concerto E-dur “La Primavera” Op. 8, No.1, RV 269
Ⅰ: Allegro
Ⅱ: Largo
Ⅲ: Danza pastorale. Allegro
ヴァイオリン :森 あずみ  クラリネット :橋本 頼幸 永山 烈
ホルン :杉村 由美子 木下 洋輔  バソン :瀬尾 哲也
< 休憩 ~ Intermission ~>
クロンマー
 Franz Krommer (1759-1831)
ピアノ三重奏曲 第1番 ヘ長調 作品32, PadK XIII:1
Trio F-dur fur Klavier, Viola und Violoncello Op. 32
Ⅰ: Allegro moderato
Ⅱ: Adagio
Ⅲ: Rondo. Allegro
ヴィオラ :橋本 喜代美  チェロ :森田 尚美  ピアノ :手嶋 有希
< 休憩 ~ Intermission ~>
ヴェルディ
 Giuseppe Verdi (1813-1901)

ロヴレーリョ
 Donato Lovreglio (1841 – 1907)
「椿姫」の旋律による演奏会用幻想曲
Fantasia da concerto su motivi della Traviata
クラリネット :橋本 頼幸  ピアノ :木田 淳
シュポア
 Louis Spohr (1784-1859)
6つのドイツ歌曲 作品103 ソプラノとクラリネットとピアノのための
6 Deutsche Lieder Op. 103
1. Sei still mein Herz 「静まれ我が心よ」
2. Zwiegesang 「2つの歌」
3. Sehnsucht 「憧れ」
4. Wiegenlied in drei Tonen 「ゆりかごの歌」
5. Das heimliche Lied 「密やかな夢」
6. Wach auf 「目覚めよ」
ソプラノ : 山本 操代 クラリネット :橋本 頼幸 ピアノ :木田 淳
- Program Notes -
主よ、人の望みの喜びよ / 目覚めよ、と我らに呼ぶ声あり
J.S.バッハ

 

 「主よ~」は約300年前にバッハが作曲した教会音楽(カンタータ:器楽伴奏付きの声楽作品)です。これまで様々なジャンル、様々な編成で演奏されてきました。冒頭を聴いて「ああ、あの曲」と思われる方も多いでしょう。バッハが作曲した数多くの曲の中でトップクラスに知られていて、時代を越えくり返し演奏される、まさに「名曲」と呼ぶにふさわしい曲です。「目覚めよ~」もまた約300年前、1731年に作曲された全7曲からなる教会音楽(カンタータ)の4曲目です。元は器楽伴奏にテノールという編成でしたが、のちにオルガン用に編曲され、広く知られるようになりました。この曲も今に到るまで様々なジャンル、様々な編成で演奏されてきました。どこかで耳にしたことがある方も多いのではないかと思います。 (Y.Sugimura)
ヴァイオリン協奏曲第1番ホ長調 「春」 作品8, No.1
ヴィヴァルディ

 

 「春」は約300年前に作曲され、元はソロヴァイオリンと弦楽合奏と鍵盤楽器のために書かれた曲でした。本日はソロヴァイオリンとクラリネット、ホルン、バソンで演奏します。この曲は3つの楽章があり、作者不明のソネット(詩)が付いています。
【1楽章】春がきた。小鳥は喜びさえずり、楽しく歌う。小川がせせらぎ、風が優しく撫でる。すると雷が轟き、稲妻が光る。嵐が過ぎると小鳥は再び楽しく歌う。
【2楽章】草原に花は咲き乱れ、空に伸びた葉は優しく音を立てる。羊飼は番犬に見張らせて眠り倒している。
【3楽章】陽気なバグパイプが奏でられ、ニンフと羊飼が明るい春の空の下で踊る。舞い踊る空の上には夏の匂いがたなびき始めていた。 (Y.Sugimura)
ピアノ三重奏曲 第1番 ヘ長調 作品32
クロンマー

 

 モーツアルトと同時代の、チェコ出身作曲家クロンマー。木管、特にクラリネット界隈以外にはあまり知られていませんが、器楽曲を中心に300曲以上の作品を残し、ハプスブルク家の宮廷楽長を務めるなど当時の音楽家としては活躍していた人物です。今回演奏する曲はピアノ、ヴィオラ、チェロという珍しい組み合わせで、ネットを漁っても音源が見つかりません(2024年3月)。高音の華やかなメロディで引きつけるという曲ではありませんが、和音やリズムの移り変わり、三つの楽器の掛け合いで場面がどんどん変わっていきます。とことこ小道を歩くように始まり、2楽章ではのんびり風景を楽しみ、3楽章は楽しくなって駆けだしてしまう。そんな散歩道のような曲を楽しんでいただけたらと思います。 (K.Hashimoto)
「椿姫」の旋律による演奏会用幻想曲
ヴェルディ

 

 椿姫は現在最も有名なオペラのひとつ。オペラは2時間以上演奏されることも多く、上演に人もセットも必要で今でも19世紀当時でも敷居が高いもの。歌劇「椿姫」の中には名曲アリアがたくさんあります。そんな珠玉のメロディを同時代のロヴレーリョが演奏会用にクラリネットとピアノの作品にしました。それはダイジェスト版にすることで敷居の高いオペラをより身近にしたかったから、あるいは男性管楽器奏者が女声ソプラノの美しいメロディを奏でたいという思いなのか。そういうわけかこの曲は、とっても美しくとっても難しく派手に作られています。椿姫から、そはかの人か、乾杯の歌(1幕)、私を愛して(2幕)、花から花へ(1幕)の4曲をテーマと変奏で綴られます。 (Y.Hashimoto)
6つのドイツ歌曲 作品103
シュポア

 

 多彩であり多作曲家であるシュポアは今年生誕230年を迎える。同年代に生きた詩人らの詩に曲をつけたのが今回の作品である。第1曲「静まれ我が心よ」不協和音の響きが乱れる心を現している。第2曲「2つの歌」小鳥と少女の掛け合いが愛らしい。第3曲「憧れ」歌詞とクラリネットとピアノが情緒的に表現されている。第4曲「ゆりかごの歌」クラリネットの音が春風を思わし心地よく眠る赤子が連想される。第5曲「密やかな夢」しめやかに短調から始まり長調への転調でドラマチックな展開となっている。第6曲「目覚めよ」クラリネットの爽やかな音から始まり、歌との掛け合いで何処までも続く溢れる生命力が感じられる。これらは大きな跳躍などほとんどなく無理のない自然に歌える作品となっている。 (M.Yamamoto)
- Members -
木田 淳(Jun KIDA); ピアノ
2021年から参加している木田さんは4回目の参加ですが、コロナで飛んでしまった2020年から出演する予定でしたのでお付き合いは5年になります。付き合いが長くなると互いに音楽がわかってきます。去年はモーツアルトで大衆を魅了し、今回はソプラノとリートでさらにバージョンアップしたピアノを聴かせてくれることでしょう。
木下 洋輔(Yousuke KINOSHITA); ホルン
木下さんといえば、やはり関西で複数団体ホルン吹きながら関東でもオーケストラに所属するバイタリティーの高さでしょう!多忙な人ではありますが、ホルンの演奏だけではなく仲間内で演奏できるよう編曲もしてくれます。出来上がった楽譜が深夜にアップロードされることも。一体いつ寝てるんですか!
杉村 由美子(Yumiko SUGIMURA); ホルン
高校のブラス、大学のオケ、社会人オケやら室内楽やら、日々いろいろな場所で音活に勤しんでおられる杉村さん。それのみならず寺社巡り、グルメ、書評等々、音活以外でも精力的に活動しておられます。ここのところおっさんばかりのフェッセルン管セクションですが、彼女のおかげで華やかさが保たれております。ありがたい。
瀬尾 哲也(Tetsuya SEO); バソン
平日はお仕事、週末は色々な所での練習や演奏会をこなす瀬尾くん。主に音楽のベース部分を担当し、目立つソロがなく、一見地味に見えますよね。でも、ベースがないとメロディは安定して進むことができないので、大事な役割なのです。今日も縁の下の力持ち的ポジションで、あたたかくて優しいバソンの音を皆様にお届けします。
手嶋 有希(Aki TESHIMA); ピアノ
手嶋さんがハマっているものは毎年違うような気がする。どうやら今年は韓国グループの『TREASURE』のようだ。うちわも手作りするらしく、とても楽しそう。そんな手嶋さんのピアノと言ったら『キラキラ』。皆んなが納得する表現です。水面の輝き、星の瞬き。そんな光景が浮かぶ彼女の演奏にご注目ください!
永山 烈(Atsushi NAGAYAMA); クラリネット
フェッセルンアンサンブルで一緒に演奏し始めて随分経つが、彼の印象は髪色以外あまり変わらず。真面目に曲と組み合って戦う姿勢はすばらしく、なのにいじられポジションなのもそのまま。今回も強力なバッハ&ヴィヴァルディ連合軍に、味方や曲にいじられつつも、退かず・媚びず・省みず戦うさまをお楽しみ、いや応援を。
橋本 喜代美(Kiyomi HASHIMOTO); ヴィオラ
私たちメンバーを取りまとめてくれている第二のパパさん的な存在のきよみさん。とっても研究熱心でいつも基礎練を欠かさず、会う度にパワーアップされている姿を見て尊敬!その反面、意外と天然なところがあったりお茶目な笑顔でギャップ萌え!これからももっと意外な一面を見つけたいと思わせてくれるヴィオリストです。
橋本 頼幸(Yoritaka HASHIMOTO); クラリネット
橋本氏、我が団の【ボス】。クラリネット奏者、大学教授、本業は建築家??超多忙から影武者の存在が囁かれる。信念がブレない方で、ご縁でとても心地よく演奏できる機会を頂戴している。そんな橋本氏の目じりが緩む時がある。推しと公表している「ももクロ」の話をする時。そして、我が団の裏ボスである奥様の名前を呼ばれる時である。
森 あずみ(Azumi MORI); ヴァイオリン
髪の毛の色が印象的な森あずみさん。普段は弦楽アンサンブルで活動されていますが、管弦ミックスアンサンブルにも来られるし、コスプレしてユニバにも来てくれるし、巨大なパフェにも一緒に挑んでくれる大切な戦友でもあります。今回も変わった編成のソロを快く引き受けてくださいましたが、変なのは得意なはず。ご期待ください!
森田 尚美(Naomi MORITA); チェロ
チェロの前はコントラバスを弾いていたというふくちゃん。頭打ち(一拍目のぶんっという音)には定評があります。最近は重い荷物を運ぶお仕事で筋力アップし、大きいチェロをよいっと担いで「ごめ~ん」といいながら練習にやってきます。ごめ~んの内容はご想像にお任せしますが・・・、今日もノリのいい頭打ちを聴かせてくださいね!
山本 操代(Misayo YAMAMOTO); ソプラノ
はじめましての山本さん、小柄だしすごく可愛い方。でも、大人!!と言うのも変かもしれませんが、すごく魅惑的な声で表現力豊かなんです。練習も違和感無く気持ちよく合わす事が出来て楽しい時間でした。これって意外と難しい事なんですが、素直でまっすぐなところが音楽にも出ているのだなと感じました。ぜひ他のレパートリーも聴きたい!
人生は今あるあらゆるものを寄せ集めて
並べて重ねて行くものなのでしょうね。
生きるということはある種のアンソロジーです。
寄せ集めて並べて重ねるものは、
どれだけ努力をしても完璧なものからほど遠く、
たいていは不完全で思うようになりません。
ただそこにはその積み重ねた見えない深みがあります。
真剣に向き合ったからこそ生まれる「奥行き」があります。
美しく感動できる生き方をするために