program2016

- Greeting -
 「フェッセルン・アンサンブル第20回定期演奏会」にご来場いただきましてありがとうございます。ついに来ました、20年。子供が生まれていたならば成人する年です。本当によく20年を迎えたものだと思います。聞きに来ていただいた皆さんのおかげであることは間違いありません。誰も来てもらえなければ演奏会にはなりませんからね。
 本日の演奏会のタイトルは「色は匂へと」としました。ご存じ「いろは歌」の冒頭です。「いろは歌」あらためて見てみると全文は以下の通りです。

    色はにほへど 散りぬるを
    我が世たれぞ 常ならむ
    有為の奥山  今日越えて
    浅き夢見じ  酔ひもせず

ひらがな47文字全てを一度ずつ使って作られた歌です。現代風に解釈すると、「匂いたつような色の花もいつか散ってしまう。この世で誰が不変でいられようか。いま無常の現世を超越し、はかない夢をみたり、酔いにふけったりはすまい」と、無常を歌っています。私はまだまだはかない夢を見たり、酔いにふけったりしていますが、この世は常ならぬものであることは知っています。

 音楽はまさに「無常」の代表選手です。音は一瞬で消えてなくなります。録音して捉えたつもりでも、完璧に再現はできません。今そこに、ライブ空間で奏でて消えたものだけが本当の音楽です。そんな音楽に取り組んで、室内楽の演奏会という形を手探りで作りながら20年を迎えたというのは感慨深いものがあります。でも、これも無常なものです。無常なものですが、この無常を聞きに来ていただいた皆さんと共有することで、永遠にかえることができる、それもまた音楽だと思っています。

 本日は、20年前に演奏したブラームスのクラリネット五重奏曲とクラリネットソナタ第2番を、まさに20年ぶりに再演します。また、この20年の間に新しく仲間になった木管楽器メンバーによるロッシーニや小品もお届けしたいと思っています。20年間変わらなかったことと変わったことを表現できればと思っています。

 本日はお忙しい中、ご来場くださいまして誠にありがとうございます。皆さんと一緒に「無常」を楽しみたいと思います。どうぞ、心ゆくまでごゆっくりお楽しみ下さい。
- Program -
G.A.ロッシーニ
 Gioachino Antonio Rossini (1792-1868)
木管四重奏曲 第1番 ヘ長調(弦楽ソナタ第1番ト長調による)
Quartette for Fl Cl Fg Hr No.1 – I
Ⅰ.Allegro moderato
Ⅱ.Andante
Ⅲ.Rondo,Allegro
フルート :渡邊 真紀
クラリネット :永山 烈
ホルン :杉村 由美子
ファゴット :瀬尾 哲也
J.E.F.マスネ
 Jules Emile Fredeic Massenet (1842-1912)
タイスの瞑想曲
meditation Thais
ヴァイオリン :熊田 千穂
ピアノ :永山 愛美
J.ヴァイセンボーン
 Julius Weissenborn (1837-1888)
2つの小品 Op.9
Two Pieces for Bassoon and Piano Op.9
ファゴット :瀬尾 哲也
ピアノ :永山 愛美
G.R.フィンジ
 Gerald Raphael Finzi (1901-1956)
五つのバガテルから ロマンス
Five Bagatelles for Clarinet and Piano Ⅱ.Romance
クラリネット :永山 烈
ピアノ :永山 愛美
R.グリエール
 Reinhold Moritzevich Gliere (1875-1956)
ノクターン Op.35 No.10
Nocturne Op.35 No.10
ホルン :杉村 由美子
ピアノ :永山 愛美
< 休憩 ~ Intermission ~>
J.ブラームス
 Johannes Brahms (1833-1897)
クラリネットとピアノのためのソナタ 第2番 変ホ長調 作品120-2
Sonate fur Klavier und Klarinette Nr.2 Es-Dur op.120-2
Ⅰ.Allegro amabile
Ⅱ.Allegro apassionato
Ⅲ.Andante con moto
クラリネット :橋本 頼幸
ピアノ :手嶋 有希
J.ブラームス
 Johannes Brahms (1833-1897)
クラリネット五重奏曲 ロ短調 作品115
Quintett fur Klarinette,2Violinen,Bratsche,und Violoncell h-moll op.115
Ⅰ.Allegro
Ⅱ.Adagio
Ⅲ.Andantino – Presto non assai,ma con sentimento
Ⅳ.Con moto
第1ヴァイオリン :宮木 義治
第2ヴァイオリン :熊田 千穂
ヴィオラ :橋本 喜代美
チェロ :梅本 直美
クラリネット :橋本 頼幸
- Program Notes -
タイスの瞑想曲
マスネ
この曲は、娼婦タイスと修道士アタナエルが繰り広げる破天荒な恋物語、歌劇「タイス」の第2幕第1場と第2場の間奏曲です。アタナエルの説得でタイスが娼婦をやめ改心し、信仰の道に入るという重要な局面で流れ、タイスの大きく転換する心情を表しています。甘美なメロディーに始まり、中間部では聖か俗かと葛藤する心情を、再現部では信仰の道を受け入れ、心まで浄化されていく様をぜひお楽しみください。 (C.Kumada)
2つの小品
ヴァイセンボーン
楽器を始めるとき、まず出会う「教則本」。楽器の基本を教えてくれるが、その行く手を阻まれかけた経験をお持ちの方も多いのでは?ピアノでは「バイエル」や「ツェルニー」ですが、ファゴットでは「ヴァイセンボーン」。どの教則本も作曲者の名前で、今回の曲はこのヴァイセンボーンさん作曲です。ご本人もファゴット奏者だったとのことで、色々なファゴットの音色の魅力をシンプルに聴かせれる曲です。 (T.Seo)
5つのバガデルから ロマンス
フィンジ
20世紀イギリスの作曲家であるフィンジが遺した数十の作品の中でも、数少ない室内楽曲「5つのバガテル」の中の一曲です。素朴でありながら、やわらかで幻想的な音楽が「Romance」という題名にぴったりです。美しい中に何か哀しみが見え隠れするような旋律が印象的です。演奏にあたってはその雰囲気を醸し出すことに苦心しますが、少しでもこの曲のもつ抒情性を紡ぎ出せれば、と思います。 (A.Nagayama)
ノクターン Op.35 No.10
グリエール
レインゴリト・グリエールは20世紀前半のロシア帝国~ソ連時代に活躍した作曲家です。本日演奏します「夜想曲」は、「さまざまな楽器とピアノとの2重奏」として作られた11の小品集のなかの1曲です。およそ100年前、まだロシア帝国の時代の曲です。現在のウクライナ出身の彼がイメージした「夜」とは、故郷の広大な大地や深い森を表現しているのか、雄大で荒々しさを感じるフレーズが出てきます。 (Y.Sugimura)
木管四重奏曲第1番
ロッシーニ
この曲はおよそ200年前に6つの弦楽四重奏として作曲され、その後別の編曲者により木管四重奏に編曲されました。本日演奏するのはその第1曲目です。軽やかに流れるメロディはいかにもロッシーニらしい雰囲気ですが、元の弦楽版は作曲者による手書きの譜面が残っておらず、本人の「自分が書いた」という文書をもってロッシーニ作ということになっています。何せこの曲を書いた時、彼はまだ12歳の少年でした。今の時代ですら12歳のときに書いたものがどの程度残っているでしょうか。200年の間演奏され続けてきたのは、それだけ多くの人の心をつかむ何かがあるのでしょう。今日はその「何か」をお伝えできる演奏ができればと思います。 (Y.Sugimura)
クラリネットとピアノのためのソナタ第2番
ブラームス
20年経ってまた演奏できることになりました。私は古くからの友人に20年ぶりに再会した感覚です。クラリネット五重奏曲と同じ時期(亡くなる3年前)に書かれたクラリネットの為のソナタは2曲あり、1番は短調でこの2番は長調です。どちらも非常に味わい深く、ブラームスの死生観を描いたと思っています。絶望だけではなく、あきらめの中にも情熱的で美しさや穏やかさがあり、高貴さが漂います。ブラームスの作品、とくにこの曲の聞き所は、入念に組み立てられたベースライン(低音)と職人芸とも言える3楽章の変奏曲です。どっぷりブラームスの世界を味わって下さい。(Y.Hashimoto)
クラリネット五重奏曲
ブラームス
1890年代、この頃には大作曲家としての地位を確固たるものにしていたブラームスだが、インスピレーションの衰えを感じるようになり、大曲の作曲を止め静かに過ごしたいと願うようになった。しかしドイツ・マイニンゲンにてクラリネット奏者のミュールフェルトに出会い、彼の完璧な演奏技巧と優しく甘い音色に衝撃を受け、再び作曲への情熱をかきたてられたと言われている。そうして作られたこの曲は、クラリネットの特徴である弦楽器との音色の溶け合いの良さを、存分に活かした名曲中の名曲である。一楽章冒頭の弦楽器の前奏からクラリネットがわき出るように導かれる所を始め、クラリネットと弦楽器のメロディーの受け渡しに注意して聴いて頂けると、この曲の美しさと緻密さをお楽しみ頂けることと思う。 (Y.Miyaki)
- Members -
永山(梅田) 愛美(Manami NAGAYAMA); ピアノ
いつも穏やかなピアノを奏でる梅田さんです。今回はソロの伴奏としてご出演です。ふたりのお嬢さんの母で、永山さんの奥様で、ピアノの先生といろんな面をお持ちです。お忙しそうに見えても、音に人柄がでるのか、ピアノでしっかり支えてもらっています。今日はソロだけでなく、伴奏の彼女もしっかり注目してくださいね。
渡邊 真紀(Maki WATANABE); フルート
フェッセルン初参加となる渡邊さん。普段は船舶関係の機器を扱う会社に勤務しておられるバリバリのキャリアウーマン。しばらく演奏活動から遠ざかっておられたのですが、中1のお嬢さんの海外留学を機に、再びフルートを手に取る決意を固められたそうです。そんなブランクを感じさせない素晴らしい演奏、年齢を感じさせない若々しさ、今後も是非常任フルーティストとして参加し続けていただければと期待しています。
永山 烈 (Atsushi NAGAYAMA); クラリネット
なんかムズかしそうな話をする白衣を着た理科の先生はちょっぴり近寄りがたい。そんなイメージとはかけ離れすぎて、永山さんは教師らしくないといえば教師らしくない。とにかく腰が低い。謙虚で威張ったところがない、人柄の良さがにじみ出ているひと。家族をこよなく愛し、4羽の愛鳥たちの世話を焼く。愛鳥たちに冷たくあしらわれた日にゃ凹みまくり。それでもめげずに週に2、3度ジムに通い、肉体改造に取り組む頑張り屋さん。
杉村 由美子 (Yumiko SUGIMURA); ホルン
一見おとなしそうに見えて、とてもパワフルな杉村さん。関東から戻ってきた彼女は、京都生活(&観光)を満喫しつつ、高校のOBバンド、ホルンアンサンブル、オーケストラ、そしてここと様々な団体で音楽生活も満喫しておられます。今回は木管四重奏の他に約20年ぶりとなるホルンソロ。久しぶりの立奏では緊張で足が震えたみたいですが、音楽大好きおねえさんは今日も活躍してくれます!
瀬尾 哲也(Tetsuya Seo); ファゴット
瀬尾さんと一緒の曲に乗るようになって、既に4年目。練習日に顔をあわせると、どちらからか「ごめん、練習できてないねん」という言葉がでる頻度が高い。そして、もう一方も「大丈夫、僕もできてないから」と返すのが通例になっている。しかし、そんなことをいいつつ、瀬尾さんはきっちり練習してきている。若干裏切られた感じはするが、常に穏やかで周囲に気を遣う、フェッセルンになくてはならぬ頼れるおじさんなのである。
手嶋 有希(Aki TESHIMA); ピアノ
家族でスノボ行くのが楽しみ。と言う、クールな見かけによらずスポーツ好きでアクティブな彼女。最近は「ONE OK ROCK」にはまっていて、誰かと熱く語り合いたいそうです。手嶋さんと言えば、昨年の演奏会でラブルの四重奏を鮮やかに演奏したことを覚えておられる方も多いのではないでしょうか。熱さをうちに秘め、今年もブラームスの難曲に挑みます!
橋本 頼幸(Yoritaka HASHIMOTO); クラリネット
20年連続20回目の出演で名実共にこの会の大黒柱であると同時に、私の大学時代からの良きパートナーです。建築士としての仕事の他に、後進の指導のため大学でも教鞭を執り、超多忙な日々を送っています。本日の五重奏は20年前の第一回目の演奏会で彼と演奏した思い出の曲ですが、当時の溌剌とした演奏とはまたひと味違う、円熟味の増した彼のクラリネットを楽しむことが出来ると思いますのでご期待ください!
宮木 義治(Yoshiharu MIYAKI); ヴァイオリン
富山、インド、中国、大阪、インドネシア?一体どこが宮木君の本拠地なのでしょう?前回の演奏会は、中国からの出席。今回はこの後、富山経由の翌日インドネシアでしたっけ?もうどの民族の方なのか分からなくなりそうな多忙さ。なのに、毎日楽器に触れるとサラッと宣言され、軽~くプレッシャーかけられております。宣言通りいつも修正を加えて練習にやって来られます。ブラームス五重奏の音楽の拠点は1stバイオリンにありますので、その辺りも楽しんでお聴き下さい。
熊田 千穂(Chiho KUMADA); ヴァイオリン
2年前の練習が始まる直前、宮木氏が事情により出演できなくなった為にピンチヒッターになったちほりんは、その後すっかり常連さん。3年連続の出演です。彼女は私のイメージするバイオリン女子(とにかくおしゃべり大好き!)とは異なり、あんまりべちゃくちゃ喋るイメージがありません。でも、メールやSNSだと雄弁で、熱い&優しいハートの持ち主なので、やっぱりただのバイオリン女子だったということが判明しました。クールに振る舞って?いますが、ブラームスもたっぷり熱く演奏してくれると思います。
橋本 喜代美(Kiyomi HASHIMOTO); ビオラ
実は19回演奏会の2カ月前に肩を骨折した喜代ちゃんですが、驚異的な回復力とリハビリの積み重ねで、無事本番を迎えました。今回のブラームスの五重奏はなかなかの難曲で、練習後は彼女も疲れているはずなのに、傍らで激しく疲弊する私の肩を優しく揉んでほぐす余裕を見せてくれます。そんな優しさと安定感が持ち味の彼女、芯がありつつも、優しさが滲み出る音色と響きで会場を包み込んでくれることでしょう。
梅本 直美(Naomi UMEMOTO); チェロ
話し方やメールの文章に、いつもどこか癒される梅本さん。家ではお料理やお菓子作りが大好きでずっと台所に立っているそうです(娘さん談)そんな優しい雰囲気の彼女は、実はラグビー観戦が趣味(五郎丸選手以前からとのこと!)。今年は日本チームがスーパーリーグに参戦するとかで体力を心配される位なのでよっぽど好きなのでしょう。意外な一面を持つ、魅力的な梅本さんの重厚なチェロの演奏をお楽しみください。
いろは
 なにか物事の始めや基礎中の基礎のことを「いろは」と私たちはいいます。「いの一番」という言葉もあります。20年を迎えて初心を振り返ってみたいと思いました。20年前。私たちが20代のころ(しれっと言ってしまいましたが今日の出演者全員20年前は20代でした)。こんな20年後を描いていなかったと思います。がむしゃらに生きていた20代から20年経って少しまわりの状況が見えるようになって次の20年をどう考えるか、それをリセットしてみてもいいかなぁというのが20年目に「いろはにほへと」と題した理由です。
 20年間で私たちの音楽は変わりました。楽譜は変わっていません。楽譜は変わらないのに音楽は変わるのです。音楽って不思議です。だから楽しいのです。いつでも楽しいのです。
 最近私は「音楽は誰のものでもありません」と言っています。演奏会の入場料を頂く方法もあるでしょうが、そこには第1回からのこだわりがあります。私たちなり
の一つの挑戦です。私たちは「誰のものでもない音楽」の世界でならどこまででもいけると思っています。
来年21回目。
 来年も皆さんにお会いできることを、
  楽しみにしています。