program2004

- Greeting -
 本日のタイトル"Sincerly yours,"は、よく英文手紙などで結びの句として書かれる言葉です。日本語では“親愛なるあなたへ”といった意味になるでしょうか。今日はその“親愛なるあなた”の中にたくさんの思いを込めたいと思っております。
  この演奏会も今年で8回目を迎えました。97年1月から年に一度だけ、その時集まれるメンバーができる曲をする、というスタイルで続けてきました。団体名もなくタイトルもその時々に演奏会の趣旨にあわせて決めてきました。何度「第○回定期演奏会」とした方が楽かと思ったことか。「また次がある」ではなく「この一回に今持てる力のすべてをかける」ことを自分自身に言い聞かせるためにも「第○回~」とタイトルを付けてきませんでした。
 もちろん、私たちは毎回演奏会では持てる力をすべてぶつけてきました。この8年間の間に私たちはどのように進化(成長)してきたのか? そして今思い返すとこの8年間の中で置いてきたこと、忘れてきたものは無いだろうか?ということを再度見直してみようと言うのが本日の演奏会のテーマです。そこで、私たちはこれまでにやった曲をもう一度演奏することで当時からどの程度成長したのか、何が変わって、何が変わっていないのか、を見つめたいと思いました。
 本日のプログラムの内、2曲は以前に同じ曲を取り上げました。残りの2曲は以前に同じ作曲家の同じジャンルの曲を取り上げました。もちろんメンバーは全く一緒ではありません。しかし、メンバーは当時の気持ちや足りなかったものに気づいたり、以前は感じなかったが今なら違う印象を持っていることを感じたり、というような様々な思いが新たに出てきました。以前やった曲でも、今回初めて出会ったかのような感覚を持ちます。
 音楽とはかくなるものかと、その懐の大きさに感心します。5年経って、10年経って、改めてその曲を取り組んでみると全く違ったものになる、ということを身をもって体験しているわけです。そこで、本日の"yours"の内の一人に、”過去の自分”を含めることにしました。今日の演奏はこれまでの8年間の「過去」に対する手紙であり、これからの自分たちに対するメッセージでもあります。
  もう一つの"yours"は、「モーツアルトとメンデルスゾーン」です。彼らの曲はこの演奏会でもしばしば取り上げてきました。いつ演奏しても新鮮でかつ難しく、私たちの前に立ちはだかります。私たちの片思いではありますが、"yours"の中に含めることにしました。 そして最大の"yours"は、本日ご来場頂いた皆さんです。こうして8回目を迎えることができたのは、これまで応援して頂き、聞きに来て頂ける皆さんがおられるからです。皆さんに最大限の親愛の意を込めて演奏したいと思います。どうぞ、最後までごゆっくりお楽しみ下さい。
 Sincery yours,
- Program -
メンデルスゾーン
 F. B. Mendelssohn (1809-1847)
2本のクラリネットとピアノのための小品第1番 へ短調 作品113
Concertpiececs for 2 Clarinet in B and Piano No.1 f-mol, Op.113
I .Allegro con fuoco
II .Andante
III .Presto
クラリネット :藪木 智子
クラリネット :橋本 頼幸
ピアノ :梅田 愛美
モーツアルト
 W. A. Mozart (1756-1791)
フルート四重奏曲 第1番 ニ長調 K.285
Quartet for Flute, Violine,Viola and Cello in D-dur K.285
I .Allegro
II .Adagio
III .Rondeo
フルート :舩橋  順
ヴァイオリン :宮木 義治
ヴィオラ :亀井 加奈子
チェロ :久保田 夏男
< 休憩 ~ Intermission ~>
モーツアルト
 W. A. Mozart (1756-1791)
クラリネット五重奏曲 イ長調 K.581
Quintet for Clarinet, 2Violin, Viola, and Cello in A-dur K.581
I .Allegro
II .Larghetto
III .Menuetto
IV .Allegretto con Variazioni
クラリネット :橋本 頼幸
ヴァイオリン :宮木 義治
ヴァイオリン :西川 友理子
ヴィオラ :亀井 加奈子
チェロ :久保田 夏男
メンデルスゾーン
 F. B. Mendelssohn (1809-1847)
弦楽四重奏曲 第5番 変ホ長調 作品44-3
String Quartet No.5 in E flat major, Op.44 No.3
I .Allegro vivace
II .Scherzo:Assai leggiero vivace
III .Adagio non troppo
IV .Molto allegro con fouco
ヴァイオリン :西川 友理子
ヴァイオリン :宮木 義治
ヴィオラ :亀井 加奈子
チェロ :久保田 夏男
- Program Notes -
2本のクラリネットとピアノのための小品 第1番 へ短調 作品113
メンデルスゾーン
 天才には、恵まれた環境で自由に発揮される才能と不遇にあるからこそ紡ぎ出される才能がある。メンデルスゾーン、モーツアルトとも前者である。この二人の天才がクラリネットのために何を思い作曲したのか?実に興味深い。モーツアルトのクラリネット五重奏もこの曲も元はクラリネットより少し大きめのバセットホルンやその改良版のバセットクラリネットのために書かれている。現在広く一般的な曲になっているのはその編曲版である。いずれにしてもクラリネットという楽器が生まれて改良されてやっと音楽シーンに出てきた頃の作品である。モーツアルトが晩年貧困にあえぎながらシュタットラーに金銭援助を受けるために書いた五重奏と、メンデルスゾーンが自由闊達に書きつづったこの小品。比較して聞いて頂くと非常に面白い。この2曲は全く異なる背景を持ちながら、聞くものを圧倒し魅了させる。天才の天才たるゆえんかと感心してしまう。(Y.Hashimoto)
フルート四重奏曲第1番 ニ長調 K.285
モーツアルト
 冒頭のフルートソロに生きる喜びが炸裂している。父や大司教の呪縛から逃れ、旅先のマンハイムでヨーロッパ随一の楽派に触れたモーツアルトの活々とした様子が目にうかんでくるようである。そこにはアロイジアへの秘めた恋心も表れているのであろう。そして調を変転としながら爽やかな哀感を残していく。そこには後の作品に多く見られる彼の激情的な面(死への極端な恐怖によると言われている)をのぞかせているようにも聞こえる。ただこの曲ではあくまでも爽快な哀しさであり、深みにはまることなく「軽さが沈み、重さが浮かぶ」音楽である。アンリ・ゲオンはこの曲を「トリステス(哀しさ)・アラント(溌剌とした)」と表現し、それが小林秀雄の「モーツアルトの悲しさは疾走する」という節を導き出すのである。この様にこの曲は彼の代表作の一つと言えるが、経済的に困窮し、金持ち愛好家の依頼を受けたもので、言わば金儲けのための仕事であった。彼は当時音程の定まらなかったフルートは好まなかったが、これらの曲を聞くと、そのフルートも天才モーツアルトの手によってみごとに生かされたと実感しないわけにはいかなくなる。3年前の演奏会では同じ時期に作曲されたフルート四重奏を演奏したが、吹くだけで精一杯だった。今回は、モーツアルトの「爽やかな哀しさ」を感じていただけるような演奏をしたいと思います。(J.Funahashi)
クラリネット五重奏曲 イ長調 K.581
モーツアルト
 この曲は1997年に一度演奏している。また、私自身は何度吹いたかわからないぐらい吹いている。もちろんクラリネットという楽器をさわり始めた頃から吹いている。しかし、未だ私はその境地に近づけない。モーツアルトはこの曲を33歳の時に書いている。ちょうど今の私たちと同じ年代だ。時代も違えば考え方も、育ちも違う。そして何より才能も違うのだからわかろうとしてもわかり得ないのかもしれない。しかし、この美しさ、優しさ、甘さ、そして寂しさ、悲しさ、陰。そのどれをとっても今の私に足りないものばかりではないか。「おまえはまだ甘いんだよ。」とモーツアルトが笑う声が聞こえる。そしてこの曲のクラリネットの使い方は、非常に控えめでどちらかといえば「副」の扱いである。弦楽アンサンブルに管楽器を入れた作品にしては珍しい。フルート四重奏曲と聞き比べると一目瞭然だ。おいしいところはいつも弦楽器が持っていく。実はそんなところがこの曲の隠れた魅力だ。そうクラリネットは日陰でいいのである。そして、私は今日この曲に含まれるモーツアルトの感情をすべて表現することに挑戦する。でもきっと「甘いな」と笑われてそうな気がする。(Y.Hashimoto)
弦楽四重奏曲第5番 変ホ長調 作品44-3
メンデルスゾーン
 メンデルスゾーンは38年のその短い生涯の中で7曲の弦楽四重奏曲を作曲している。今日演奏する弦楽四重奏曲作品44-3(1838年の2月に完成)はその中でも後期の作品にあたり、まるでオーケストラのようなその響きはこの作曲家後期の弦楽四重奏曲の特徴でもある。作曲時メンデルスゾーンは29歳だったが、彼にとって最も脂ののった時期であったこの頃には、彼の代表作と目される多くの名作が次々と生み出されており、(一例を挙げると、同年にはかの有名なヴァイオリン協奏曲ホ短調が着想され、2年後には交響曲第3番<スコットランド>がイギリス旅行中に着想されている。)この弦楽四重奏曲も「古典主義的な美しさ」から「後期の複雑化」へと変化していく過程での実験的作品であったと考えられる。批評家でもあったシューマンが傑作と評価した作品の割には演奏される機会が少ないのが残念なのだが、近年は再評価の声も高まりつつあり、若い団体がこぞってレパートリーに加えているのは私個人としてもうれしいことである。(Y.Nishikawa)
- Members -
梅田 愛美(Manami UMEDA); ピアノ
私は梅田さんについての情報をある情報筋から入手した。以下に列記する。
(1)昨年結婚したらしい (2)結婚と同時に家を買ったらしい (3)ピアノの先生らしい (4)実はこの演奏会最多出演を誇るらしい(全演目34曲中18曲!)(5)風邪をひいて熱があっても本番ではそんなことを感じさせない強い精神力とプロ根性をもっているらしい (6)実はドイツ系はあんまり好まず、フランス系を好むらしい。(あくまでもピアノに関してであるが・・・。)以上、すべて未確認情報ではあるが信頼できるものと考える。
亀井 加奈子(Kanako KAMEI); ヴィオラ
人は彼女を亀ちゃんと呼ぶ。彼女のヴィオラケースには亀のぬいぐるみ、手には亀の指輪が。彼女は並はずれた技量の持ち主だ。ヴィオラ以外にもいくつかの楽器が出来るらしい。私がこの名ブラチストとアンサンブルをするのは初めてだ。練習で私がポトポト落ちるのに比べ、彼女は全然落ちない。難しいパッセージも「弾かれへん」と言いながら難なく弾いてしまう。彼女は、仕事が大変忙しいにもかかわらず、所属する女性だけのアンサンブルでは指導もやっている。ちなみにそのアンサンブルに残念ながら私は入れない。
久保田 夏男(Natsuo KUBOTA); チェロ
園芸と音楽をこよなく愛する久保田君。ある時の練習には自宅で採取したミカンやブドウを持参し休憩の間にバリバリと食べる。また別の練習には自作ヴァイオリンを持ってきてくれて、皆に披露してくれる。ちなみに今はビオラ作りに忙しいらしい。そのためかどうかは分からないが彼は俗世間の話題には非常に疎い様である。先日、同じメンバーのKさんが「久保田君って森山直○郎に似てるよね」といったが「誰、それ?」と一蹴してしまった。今日の演奏会ではこんな久保田ワールドを存分に楽しんでもらえる筈…かな。
西川 友理子(Yuriko NISHIKAWA); ヴァイオリン
昨年カムバックを果たしたゆーちゃんは今年もメンカルの1stなどで大活躍である。昨年に比べて音質が格段にきれいになったような気がする。家事に追われながらも毎日のようにさらっている努力のたまものであろう。練習でコメントを求められ「わかんない~」とか言ってるわりには鋭い指摘をしたりして、音楽的センスも素晴らしい。今年はメンバーのうち三人がパパorママになる(まだ増えるかも…)が、彼女もそのひとり。練習を毎日お腹で聞いているのでどんな子になるかはゆーちゃんの出来次第かも…。乞うご期待。
橋本 頼幸(Yoritaka HASHIMOTO); クラリネット
彼のクラリネットを初めて聴いたのは遥か10年以上前。大学オケに入った時の4回生の一人が橋本氏でした。当時、彼のことを後輩はこう書きました。「多面すぎて分からないが実はおしゃべり」「そろそろ大人にならないとね」これを今検証します。(1)今もおしゃべりですが、最近はそれが字になって表現されている。昨年5月以降、彼がメンバーに宛てたメールは軽く120通超!中にはドラマ解説が入っていたりします。(2)彼が大人になったかは、当時幼すぎた私には計り知れません。でも当時の写真は今とあまりかわりません。
舩橋 順(Jun FUNAHASHI); フルート
彼は、フルートふきです。とっても遠い静岡から練習にやってくるフルートふきです。メンバーの中でとっても古くからのお付き合いがある人からは、『理事』と呼ばれているフルートふきです。加えて、とっても、とっても、“いい人”なフルートふきです。SMAPで言うと「くさなぎくん」くらい、いい人なフルートふきです。だから、そのフルートの音色ももちろんとってもいい音です。それに、とってもいいパパになるでしょう。だから、今日は、いつもより、とっても、とってもステキなフルートふきなのです♪。
宮木 義治(Yoshiharu MIYAKI); ヴァイオリン
演奏会のチラシを見て頂いてもお分かりのとおり、彼は「かわいい」という形容詞が良く似合う。ディズニーの小鹿のバンビを彷彿とさせるその風貌、ところが、学生時代の彼は無機的なオッサン然とした性格だったのだ。しかし人は変わるもので、今の奥様に出会ってから「愛を知った小鹿」と化し、いつも家族に対する変わらぬ熱い思いを語るまでに変身した。そして今年ついに、待望のベイビーが誕生するのだ。ますます愛に溺れるだろう、それもまた良し!彼のヴァイオリンも今より増して美しい旋律を奏でるだろう。
“ふり返ると言うことは”
 実は、ものすごく後ろ向きのようですが、考え方によっては非常に前向きにもなります。「歴史から学べ」なんて使い古された言い回しはしません。しかし、これまで自分たちが歩いてきた道を立ち止まって一息つくのはとても大切なことではないでしょうか。
 私たちはとかく日常の生活が忙しくてただ前だけを見て走り続けることがあります。しかし、どんなに一生懸命走っていても、道はただ一つではありません。交差点もあれば、踏切もあり、時には行き止まりもあるでしょう。そんなときは否が応でも立ち止まって考える時間を与えられます。その時にこれまで歩いてきた道をふり返って見る余裕を持つこと。今はそんなことが求められているのかもしれません。
私たちの次の一歩はどこを向くのでしょうか?