program2003

- Greeting -
 ”室内楽は芸術か?”あるいは”音楽は芸術か?”
 ”芸術”とは「学芸と技術」を略したものです。学芸は学問とほぼ同意です。”芸術”を辞書でひくと「鑑賞の対象となるものを人為的に創造する技術」とあります。「そんな単純なものか」とお思いになった方もおられるかもしれません、「そんな難しいものだったのか」と感じた方もおられるかもしれません。この「鑑賞の対象となるもの」と言われると、我々のような団体の、我々のような演奏会が”鑑賞に堪えうるものなのか”と考えさせられます。
 さて、本日のテーマは「センチメンタリズム」です。「18世紀後半に西欧に起こった文芸上の一傾向で、個人の感情生活と信条の自由な発露を尊重する。」というのがセンチメンタリズムの一般的な説明です。ご承知のように音楽は”時間”を選ぶ芸術です。作曲家が作曲しただけでは”鑑賞”できません。そこには演奏者が必要ですし、それを共有する聞き手も必要です。作曲家は多かれ少なかれ“センチメンタリスト”です。では、作曲家はどんな思いで五線に音符を記すのでしょうか?
 私たち演奏者が作曲家の思いを唯一知ることができるのが楽譜です。作曲家について書かれた伝記や、時には作曲家自身が記した自叙伝であっても、作曲家の真の思いを知ることが困難です。楽譜は作曲家のすべてであり、絶対的なものです。そこには演奏者の都合など全く考慮する余地はありません。ひとたび楽譜を前に演奏を始めたら、演奏者がプロ・アマチュアに関わらず求められる結果は一つ、作曲家の思いを忠実に再現することだけです。プロだからできて当然、アマチュアだったらこの程度でいいのではないか、ということは音楽に関しては全く当てはまらないことなのです。作曲家が真剣に音楽に対して向き合っている以上、演奏者もその音楽に対して真剣に向き合うのが演奏者の努めです。だからこそ響きあって、聞き手にメッセージを伝えることができるのではないかと思っています。
 という話をすると、「難しいなぁ」とお思いになるかもしれません。しかし、作曲家と演奏者の真剣勝負を楽しむのも、演奏会の一つの楽しみです。それは私たちが一流のスポーツや格闘技を見るときと全く同じです。音楽でもスポーツでも真剣勝負だからこそ感動しますし、私たちの人生を豊かにしてくれます。その真剣勝負の中で、何か新しいメッセージが見つかれば、この演奏会の中で1曲でも面白いと感じた曲があれば、私たちの真剣勝負は初めて「鑑賞の対象になった」と思えます。
 本日はご来場いただきまして誠にありがとうございます。最後まで、どうぞごゆっくりお楽しみください。作曲家と演奏者の真剣勝負は、聞き手には非常に楽しいものです。
- Program -
ショスタコビッチ
 D.Schostakowitsch (1906-1975)
2本のバイオリンとピアノのための3つの作品 編曲 K.Fortunatow
Three duet for two violins and piano
1 .前奏曲 : Prelude
2 .舞踏曲 : Gavotte
3 .ワルツ : Waltz
ヴァイオリン :西川 友理子
ヴァイオリン :宮木 義治
ピアノ :梅田 愛美
ショスタコビッチ
 D.Schostakowitsch (1906-1975)
4つのワルツ(フルート、クラリネット、ピアノのための)
編曲 L.アトヴミアン
Four Waltzes for Flute, Clarinet and Piano Arr. Lev Atovmyan
I .春のワルツ: Allegretto
II .ワルツ・スケルツオ: Allegretto
III .ワルツ: Tempo di Valse
IV .手回しオルガンのワルツ: Allegretto
フルート :舩橋 順
クラリネット :永山 烈
ピアノ :梅田 愛美
< 休憩 ~ Intermission ~>
キュイ
 C. Cui(1835-1918)
フルート、バイオリンとピアノのための5つの小品 作品56
Five pieces for flute, violin and piano, op.56
1 .悪戯け : Badinage
2 .子守歌 : Berceuse
3 .スケルツォ : Scherzino
4 .夜想曲 : Nocturne
5 .ワルツ : Waltz
フルート :舩橋 順
ヴァイオリン :西川 友理子
ピアノ :梅田 愛美
ミヨー
 D.Milhaud(1892-1974)
2本のバイオリンのためのソナチネ
Sonatine for two violins
I .快活に : Vif
II .舟歌 : Barcarolle
III .ロンド : Rondo
ヴァイオリン :宮木 義治
西川 友理子
サン=サーンス
 C. Saint-saens(1835-1921)
クラリネットとピアノのためのソナタ 変ホ長調 作品167
Sonata in E-Flat Major for clarinet and piano, Op.167
I .アレグレット : Allegretto
II .アレグロ アニマート : Allegro animato
III .レント : Lento
IV .モルト アレグロ: Molto allegro
クラリネット :橋本 頼幸
ピアノ :梅田 愛美
- Program Notes -
2本のバイオリンとピアノのための3つの作品
ショスタコビッチ
 ショスタコビッチは生涯で15曲の交響曲をはじめ、協奏曲、オペラ、室内楽、映画音楽など様々なスタイルを持った多数の曲を残している。その創作活動は当時のソ連という特殊な国家体制と大きく関わっており、ソ連と共に生きるというある種の絶望と理想とをその類まれな音楽的才能で包み込んで消化することで、様々な顔をもつ作品を生み出しながら時代を生き抜いた一人である。表面的には古典的で明るい音楽であっても、その作品の根底には常に深いセンチメンタリズムが潜んでいるように感じられる。この曲はそんなショスタコヴィッチの作品の中でも余り知られていないな室内楽作品で、1曲目は映画音楽「馬あぶ」から、2曲目は劇音楽「人間喜劇」から、3曲目は映画音楽「マクシムの帰還」からの抜粋である。3曲目は本日演奏される『4つのワルツ』にも入っている。(Y.Nishikawa)
4つのワルツ(フルート、クラリネット、ピアノのための)
ショスタコビッチ
 ショスタコビッチは好き嫌いがはっきり別れる作曲家である。時代に翻弄されながらも、非常にユーモラスな人柄であった彼の音楽は1度聞いただけでは分かりにくい。彼の作品は大曲であれ小品であれ無駄を徹底的に省いた音の組み合わせで成り立っている。時にはそれが非常にいやらしく聞こえることもある。この小品も映画音楽・バレー音楽からの再編成である。1曲目は映画「ミチューリン」から、2曲目はバレー「ボルト」から、3曲目は映画「マクシムの帰還」から、4曲目は映画「馬あぶ」からの抜粋である。実は彼には1946年に作曲された作品番号のついていない子供のためのピアノ曲「人形の舞曲」というのがある。『2本のバイオリン~』の2曲目ガボットとこの曲の2曲目のワルツが収録されているが、実にシンプルで無駄がない。この無駄を省いた一音一音の緊張感が彼の作品の大きな特徴である。(Y.Hashimoto)
フルート、バイオリンとピアノのための5つの小品 作品56
キュイ
 キュイは帝政ロシア時代の華麗な文化が開花した19世紀後半、ロシア国民音楽の確立を目指した「ロシア5人組」の一人です。彼は「ロシアらしさ」を強調する5人組の過激なスポークスマンでしたが、彼自身はフランスとリトアニアの混血で、帝制ロシアの軍人であり、正規の音楽教育を受けていません。それでいて辛口の音楽評論家であり、周囲に敵も多く余り幸せな人生を送っていません。しかし彼の作品は感傷的でロシア的哀愁のある作品が多く、高貴な品性と控えめな優美さを持っています。この小品も、ある程度古典的な形式を意識していますが、小粋で洒落た曲が対照的に配置されており、聴く人を飽きさせない愛らしい作品です。(J.Funahashi)
2本のバイオリンのためのソナチネ
ミヨー
 ミヨーは南仏プロヴァンスの生まれですが、ユダヤ系であった彼は第二次大戦中迫害を逃れるため1940年から7年間アメリカに渡っていました。この曲はアメリカに来た初年にシカゴ行きの列車の中で作曲されたものです。この曲に関する資料はほとんど残っていませんが、故郷を離れた寂しさと新天地での生活に対する希望がからみあった複雑な感情が表現されていると思われます。二楽章の舟歌はゆったりと流れるヨーロッパの河のイメージを感じさせ、一方三楽章の歯切れの良いカントリー調の対旋律はガーシュインなどのアメリカ音楽を彷彿とさせます。これらがミヨーの「多調」音楽でまとめられ、コンパクトでありながら印象に残る作品になっています。しかし演奏する側にはヴァイオリン2本のみという珍しい編成と数小節単位の激しい転調で相当な難曲です。(Y.Miyaki)
クラリネットとピアノのためのソナタ 変ホ長調 作品167
サン=サーンス
 クラリネットを取り上げた名曲は作曲家の最晩年に書かれることが多い。このソナタは、1921年(86歳)の亡くなる年に作曲された。彼は実に器用な天才であった。ピアノやオルガンの名手であり、名指揮者であり、作家でもあり、天文学や考古学にも精通していた。彼の作品はいずれも親しみやすく、わかりやすい。裏を返すと俗っぽく、”売れる”曲を自在に書くことができたといえる。一方で非常に頑固でドビッシーやラベルなどの20世紀の新しい音楽に染まることはなかった。そんな彼が死の直前にクラリネットのためのソナタを作曲したことは非常に興味深い。このソナタは、名ピアニストだったサン=サーンスにしてはピアノパートが極めてシンプルである。さらに人生を総括するような曲の構成と旋律の美しさ。実は彼はこんな曲をいつも作曲したかったのかも知れない。(Y.Hashimoto)
- Members -
梅田 愛美(Manami UMEDA); ピアノ
 一見『かわいい』『やさしい』イメージの梅田さん。『かわいい』は文句なくあてはまるのだが『やさしい』はどうだろうか。確かにピアノ教室での梅田さんは『やさしい』先生らしい。彼女の家には7ヶ月になるシーズ―犬(名前はベッカム!)がいるのだが、ここでも『やさしさ』が発揮されかわいがりすぎたためか、抱かないと外の散歩には行けないコになってしまったそうな。”犬”ならまだいいのだが、これが”人”となると後が大変なので、『きびしい』梅田さんでしっかりしつけて(?)下さいね。そんな彼女、今日は5曲のプログラム中4曲に出演します。難曲もあり練習は大変だったでしょうが、きっと華麗なピアノさばきで情熱的な音楽を聞かせてくれることでしょう
永山 烈(Atsushi NAGAYAMA); クラリネット
 彼がクラリネットを始めて約10年。それでもこの楽器は、まだまだナゾの多い奥の深い楽器です。ここ数年は仕事が忙しいこともあって、なかなかまとまった練習時間が取れず、思い通りの音が出ないこともしばしば。力が入りすぎて演歌っぽいクラリネットになってしまうこともあったりします(笑)。そんな彼は今、 “合気道” にはまっています。週3回の稽古には、ほぼ皆勤賞状態で道場へ通うほどで、楽しくて仕方ないようです。こう見えても黒帯の持ち主なんですよ。今回は “ショスタコビッチ4つのワルツ” に登場します。個性豊かな音色で、フルートと共に楽しい演奏を聴かせてくれることでしょう!
西川 友理子(Yuriko NISHIKAWA); ヴァイオリン
 4年ぶりに彼女が演奏会に復帰する。この間1人でヴァイオリンパートを守ってきた私にとってこの上ない喜びである。大学オケ時代(?年前)からの付き合いで、お互いの演奏上のクセなんかも分かっている。しかし彼女と演奏するのは決して楽なことではない。彼女は1音1音丁寧に、曲の持っているイメージに合わせながら音楽を創っていく。一緒に練習していると私もよく音程等の誤りを指摘され、自分の練習不足を反省する事しきりである。そんな音楽に厳しい彼女であるがつついてみるととても楽しい人で、今のお気に入りは愛犬(ラブラドールレトリバー黄)の肉球のにおいを嗅ぐことだそうだ。とてもこうばしいにおいがするらしい。この中に飼っている方がおられたら是非お試しを。
橋本 頼幸(Yoritaka HASHIMOTO); クラリネット
 我々グループの中心的存在であり、誰よりも音楽を愛しているパパ。博士論文の〆切に追われながら、今回のコンサートの準備をしてくれたパパ。若かりし時代の「やんちゃ」ぶりを暴露され、開き直っていたパパ。なぜパパと呼ばれるか、外見でなんとなくわかってしまうパパ(まだまだ20代!)。でもほんとに2児のパパ。実はドクターパパ。本番一ヶ月前の「熱い」指導でインフルエンザ&肺炎になってしまったパパ。その後体調は治ったんでしょうか?本日の演奏ではきっと全快してパワフルな演奏を聴かしてくれるでしょう。ご期待あれ。
舩橋 順(Jun FUNAHASHI); フルート
 舩橋氏は、現在静岡県において研究職に従事しておられる。彼は、この演奏会のために、二ヶ月に一度、電車を乗り継いで大阪まで練習にやってくるのだが、疲れなど微塵も感じさせず練習に励む姿には恐れ入る。また彼は万事においてそつがない。彼と知り合って数年になるが、私は彼がポカをやらかしている姿を見たことがない。更に特筆すべきは、彼のフルートの腕前である。知り合った頃から巧かったのが、この数年でめざましい飛躍を遂げ、私など足下にも及ばない。温厚篤実な人柄ながら、演奏は緻密にして大胆、細心にして豪放。その腕前を見込まれてか、はたまた彼の人柄からか、結婚式などでの演奏を頼まれることもしばしばであったようであるが、間もなく、彼自身が演奏しなくてもよい結婚式を迎えることになるそうで、全くもって羨ましい限りである。今回はお祝いがわりということで、誉めちぎった状態で紹介文を締めさせていただくことにする。
宮木 義治(Yoshiharu MIYAKI); ヴァイオリン
 昨年モーツアルトのソナタでソロデビュー(?)を果たした彼は、今年もそのパワーを遺憾なく発揮してくれる(はず)。今年ははじめてバイオリン二本の曲にも挑戦している。彼の軽~い一言で選曲が二転三転し、ここだけの話(本当にここだけの話にとどめておいてほしいのだが)、ミヨーは本番までに3回しか練習できていない。彼は元来非常に器用な一面も持ち合わせているので、ある程度そんなことも可能なのである。その裏で割を食っているのが4年ぶりの復活出演となる同パートの西川嬢である。そんな彼も最近は非常に頼れる存在になってきた。ようやく頭角を現してきたと言うところだろうか。今年は去年とはまた違った意味で成長したバイオリンを聞かせてくれるだろう。(でも、そんな裏で必死に練習しているいることは想像に難くない。)
“あなたの夢は何ですか?”
 夢を見るのが本当に大変な時代になりました。国内外含めて非常に暗い情勢です。一触即発の綱引きがあらゆるところで繰り広げられています。生きると言うことが本当につらい時代です。とはいえ、逃げてばかり、甘えてばかりでは後悔するだけです。
 私の夢は、音楽を続けること。こうして音楽をやっている間だけは俗世間から離れすべてを忘れて打ち込める、夢を見ることができるから。今日こうして演奏会を開いて、我々だけでなく皆さんに夢を見てもらうことができたのか?はたまた、鑑賞に値するものになったのかどうか?
 非常に気になるところではありますが、あえて聞きません。もし皆さんが少しでも”夢”を見ることができたら、またこの演奏会に足を運んでください。
私の夢は、ただの現実逃避のようですが・・・。