program1999

- Greeting -
 早いもので、今回で私たちの室内楽の演奏会も3回目を迎えます。ほぼ同じメンバーで、同じ場所で、同じ時期に行ってきました。毎回何かにこだわり挑戦してきました。今回のこだわりは、“音楽の香り・薫り”です。音をもって匂いを伝える、という一見無謀なことに挑戦します。
 少し話は変わりますが、もう一つ大きなこだわりがあります。それは、タイトルの中にある“古典と現代”です。何が古典で、何が現代なのか? 今回のプログラムを、音楽の教科書的に分類すると、前半の2曲(ショスタコービッチとアルチュニアン)が現代になり、後半の2曲(ハイドンとクロンマー)が古典になるのでしょうか。この中で作曲家としてある程度知られているのはハイドンぐらいでしょう。他の作曲家は、ほとんど無名に近いと思います。ところで、私たちは音楽に限らず、物事をよく古典・近代・現代などと分類します。確かに、現在からみれば、今は“現代”で、少し前は“近代”で、かなり前は“古典”ではあります。しかし、私たちが“古典”と称している時代はその当時ではいわゆる“現代”であり、“現代”と呼んでいる世界も数百年経てば“古典”になってしまいます。つまり、“現代”や“古典”という分類は、“現代人”の自己中心的で、相対的なものの見方にしか過ぎません。もちろんそれでもいいのかもしれません。しかし、“現代”や“古典”という分類をしたことによって、その曲の本質が十分に伝わらないのであるならば、その分類は何も意味をなさないことになります。私たちが音楽を通して伝えるものは、相対的なものではなく絶対的なものであり、教科書に書いてあるような理論や分類ではなくその曲の持つ本当の姿です。“現代”の音楽も“古典”の音楽も、一つのすばらしい曲であることに違いはありません。どうか、「現代音楽なんて意味不明で難しい」などと思わないでください。意味不明な音楽や難しい音楽などあってはならないからです。
 さて、話は戻りますが、どのように“音楽の匂い”を伝えるか。 “音”や“匂い”は耳や鼻などの感覚器官に伝わりますが、それらが“音楽”や“香り・薫り”になったとき耳や鼻などの感覚器官ではなく心に伝えることができるはずです。それが本日のテーマであり、私たちのメッセージです。
 本日はご来場くださいまして誠にありがとうございます。どうぞごゆっくり“音楽の香り・薫り”をお楽しみください。
- Program -
ショスタコービッチ
 D. Shostakovich (1906-1975)
4つのワルツ(フルート、クラリネット、ピアノのための)編曲 L.アトヴミアン
Four Waltzes for Flute, Clarinet and Piano Arr. Lev Atovmyan
I .春のワルツ: Allegretto
II .ワルツ・スケルツオ: Allegretto
III .ワルツ: Tempo di Valse
IV .手回しオルガンのワルツ: Allegretto
フルート :舩橋 順
クラリネット :橋本 頼幸
ピアノ :梅田 愛美
アルチュニアン
 A. Arutiunian (1920- )
ヴァイオリン、クラリネットとピアノのための三重奏曲
Suite for Trio (Violin, Clarinet and Piano)
I .イントロダクション: Introduction
II .スケルツオ: Scherzo
III .ダイアログ: Dialog
IV .フィナーレ: Final
ヴァイオリン :宮木 義治
クラリネット :橋本 頼幸
ピアノ :梅田 愛美
< 休憩 ~ Intermission ~>
ハイドン
 J. Haydn (1732-1809)
弦楽四重奏曲 ニ長調 作品64の5 「ひばり」 Hub.Ⅲ/63
String Quartet in D Major, Op.64, No.5, Hob.III/63 “The Lark”
I .Allegro moderato
II .Adagio – Cantabile
III .Menuetto : Allegretto
IV .Finale : Vivace
第1ヴァイオリン :宮木 義治
第2ヴァイオリン :西川 友理子
ヴィオラ :小西 喜代美
チェロ :山口 知子
クロンマー
 F. Krommer (1759-1831)
クラリネット四重奏曲 ニ長調 作品82
Quartet for Clarinet, Violin, Viola and Cello op.82 in Dmajor
I .Allegro moderato
II .Adagio
III .Menuetto. Allegretto
IV .Rondo
クラリネット :橋本 頼幸
ヴァイオリン :西川 友理子
ヴィオラ :小西 喜代美
チェロ :山口 知子
- Program Notes -
4つのワルツ(フルート、クラリネット、ピアノのための)編曲 L.アトヴミアン
ショスタコービッチ
 ショスタコービッチほど、様々な顔を持った作曲家も珍しい。ショスタコービッチと聞いて、ちょっと音楽を知る人なら、ド派手な交響曲を思い出すかもしれない。それもまた彼の一面でもあるが、本日取り上げたような現代的な手法で古典的な「かわいい」音楽を書くのもまた彼の重要な一面である。彼の「顔」をつくるのに、ソビエトの共産主義政策や20世紀という時代が大きく影響しているのは間違いないが、実際彼がどのように感じ何を表現したかったのかは、彼にしかわからない。本日取り上げるこの4つのワルツは、ショスタコービッチの作品の中では非常にマイナーな室内楽曲である。この曲の3つは、彼と20世紀の作曲家の重要な仕事の一つである、映画音楽からの抜粋であり、残る1曲は、バレー音楽からの抜粋である。編曲は、ショスタコービッチの友人であり、彼の様々な作品の編曲を手がけた、作曲家アトヴミアンによる。本曲の出典は以下の通り。
 1曲目は、クラリネットとピアノで、映画”ミチューリン”の音楽から
 2曲目は、フルートとピアノでバレー音楽”ボルト”から
 3曲目は、フルート、クラリネット、ピアノで、映画”マクシムの帰還”から
 4曲目は、ピッコロ、クラリネット、ピアノで、映画”うまばえ”から
ヴァイオリン、クラリネットとピアノのための三重奏曲
アルチュニアン
 アルチュニアンは、1920年にアルメニアの首都エレバンに生まれた作曲家である。おそらく現在も活躍しているであろう(確実な情報が得られなかった)。アルチュニアンの作品の中では、1949年作曲の「トランペット協奏曲」が最も有名である。しかし日本ではあまりその名は親しまれていない。今回取り上げた「ヴァイオリン、クラリネットとピアノのための三重奏組曲」は、1992年にアメリカのヴァダー三重奏団の委託で作曲され、同年ボルチモアで初演された。曲は、彼の生まれた国であるアルメニアの民族音楽を、非常に明快に織り込んだ曲になっている。曲は、4楽章からなり、1楽章がおそい楽章、2楽章がはやい楽章、3楽章がおそい楽章、4楽章がはやい楽章と、おそい楽章とはやい楽章が交互にでてくる構成になっている。
 (作曲家や作品に対する情報が少なく、またその評価も確立していません。作品に対する評価は音楽を演奏する上で、さほど重要なことではありませんが、作曲家や作品については深い解説はいたしません。この曲には、私たちは情報のないまま自由に取り組めた曲であり、だからこそ自分たちの思いのままに演奏することができます。そのような意味では、非常に貴重な演奏になると思います。)
弦楽四重奏曲 ニ長調 作品64の5「ひばり」Hub.Ⅲ/63
ハイドン
クラリネット四重奏曲 ニ長調 作品82
クロンマー
 ハイドンは、学校の音楽の教科書に出てくるぐらい有名な作曲家である。本日のプログラムの中で最も有名な作曲家であることは間違いありません。ハイドンは72年の生涯で、109曲の交響曲、19曲の協奏曲、68曲の弦楽四重奏曲他、非常に多数の曲を作曲している。その中でもとりわけ、弦楽四重奏曲は、時代の先導的役割を果たした作曲家である。最も弦楽四重奏という組み合わせをつくったのがハイドンとも言われている。従って、モーツアルトもベートーベンも彼の弦楽四重奏曲を習って、弦楽四重奏曲を作曲している。また、ハイドンは宮廷と密接な関係を保ち、多くのパトロンを持ち音楽家として非常に恵まれた環境で作曲をしていたことも彼の音楽を語る上で重要だ。父親は、車大工職人であり、裕福な家庭に育ったわけではなく、音楽家としてエリート教育を受けたわけでもない。そんな彼が、その地位に登りつめるには、努力と才能の他に、非常な強運さを持っていたと言えるだろう。
 一方、クロンマーは無名に等しい。1759年にチェコに生まれ、前述のハイドンよりやや後の時代に活躍した人物である。叔父からヴァイオリンとオルガンを習い、ハイドンやモーツアルトの音楽にふれ才能が開花したと言われている。クロンマーの音楽は実に明快で親しみやすいという性格をもっている。彼の作品は、オーケストラ曲・声楽曲・室内楽曲と様々なジャンルにわたる。特にクラリネットのレパートリーとしては重要な位置を占めている。協奏曲が3曲、2本用の協奏曲が2曲、クラリネット四重奏が6曲、五重奏が1曲、2本のクラリネットとビオラのための作品が12曲存在する。本日取り上げたのはそのクラリネット四重奏曲の中の1曲であるが、クロンマーにはもう一つ忘れてはいけない側面がある。それは、彼がハイドンと肩を並べるほど、弦楽四重奏の発展に貢献したことである。ハイドンと比べて、地味で無名な作曲家ではあるが、その作品はその後の多くの音楽家に影響を与えたに違いない。先進的な感覚を持ち、18世紀のモーツアルトやハイドンの様式を用いながら、実に自由な音楽の世界を展開するスタイルは、無名にしておくには勿体ない曲ばかりである。知名度においては、ハイドンとクロンマーはまさに光と影のような関係ではあるが、彼らに違いがあるとすれば、才能でも努力でもなく生まれた時代と持ち合わせた運だったといわざるを得ない。
 ハイドンは1790年にひばりを作曲し、クロンマーは、1816年にクラリネット四重奏曲ニ長調を作曲した。どちらも作曲家として円熟してきた57-58歳の頃の作品である。ハイドンの弦楽四重奏は2本のヴァイオリン・ビオラ・チェロ、クロンマーのクラリネット四重奏は、2本ヴァイオリンの内の1本がクラリネットに置き換わったクラリネット・ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロの編成になる。時代をリードした四重奏という形態を、そのような観点から聞き比べることは、非常に興味深いのではないだろうか。
- Members -
橋本 頼幸(Yoritaka HASHIMOTO); クラリネット
 5年前、私が彼に会ったときから、すでに彼はパパと呼ばれていました。彼の部長クラスの貫禄がそう呼ばせるのか、親しみやすい性格がそう呼ばせるのか、私にはわかりません。
 パパは音楽に関してこだわりを持っています。演奏会ではそのこだわりを存分に発揮してくれると思います。
 ちなみに彼は昨年ゴールインして、現在新婚ほやほやです。おまけに今年にはほんまもんの「パパ」になるらしいのです。うらやましいなぁ。
梅田 愛美(Manami UMEDA); ピアノ
 去年に引き続き登場の梅田さんは、地元の八尾で子供たちにピアノを教える先生です。そのためか、ちっちゃくてかわいらしいけどとてもしっかりとしていて、僕よりも年下なのについ敬語で話しかけてしまいます。
 そんな彼女もなんか最近は和歌山近辺に出没するらしいのだが、その理由は不明(?)である。練習に対する態度はとても一生懸命で、どんな時でもきっちりとさらってくるので僕はとてもたよりにしています(きっと某クラ吹きも)。今日は彼女の華麗なピアノさばきをよく聞いてくださいね。
舩橋 順(Jun FUNAHASHI); フルート
 舩橋くんと初めて出会ってから早いものでもう6年。一見、真面目で普通のお兄さんに見える彼だが、実は意外におちゃめな人でもある。
もうだいぶ前の話だが、大学の追試前夜に飲み過ぎ、翌朝電車で気持ち悪くなって電車の窓から線路に向かって吐いてしまい、そのあと爆睡、滋賀から大阪に向かうはずが気付いたら近江舞子まで行ってしまったという逸話の持ち主。フルートの腕前の方は私はあんまり知らないけど、ボーリングは確か上手かったし、結構運動神経も良さそうなので(?)今日は素敵な演奏を聴かせてくれるはず¤。皆様どうぞお楽しみに!
宮木 義治(Yoshiharu MIYAKI); ヴァイオリン
 早いもので、宮木とのつきあいも、もう7年目になる。大学時代から彼を観察し続けてきた「宮木義治研究家」の私としては、今回の出来事に関してきわめて遺憾であると言わざるを得ない。その出来事とは“結婚”である。思えば大学時代、女性に関しては赤子同然であった彼を見て、「これではいかん」と様々な手を尽くしてきた我々「宮木義治を考える会」の苦労はいったい何だったのであろうか。断っておくが、決して私は宮木が私より年下で、学生で、女性に関しては奥手だったのに、私をさしおいてさっさと結婚してしまったことに怒りを抱いているわけではない。ただ、毎回宝くじを買ってはハズれている人が、たまに買って大あたりした人に対して抱く妬みとも羨みともつかぬ感情に近いものがあるだけである。
 ま、とりあえず、宮木、結婚おめでとう。 ― どちくしょう。
西川 友理子(Yuriko NISHIKAWA); ヴァイオリン
 ゆーちゃんは去年の演奏会の時は、確か「岩本友理子」をしていた。でも、去年のプログラムに結婚するみたいなことを書いたので、結婚をしてしまった(またもや、真に受けたらしい)。で、今は「西川友理子」である。どの“西川”かは、想像にお任せする。本人は”西川”という響きがあまりお気に入りじゃないらしい。結婚をしてしまったので主婦になってしまったゆーちゃんは、毎晩の献立にちょっと困っているみたい(かなりホント)。そんなゆーちゃんは、来年は、来年は、・・・。(三度、予想が的中しそうで恐ろしくて書けない。)   (参考文献:去年のプログラム)
小西 喜代美(Kiyomi KONISHI); ヴィオラ
 1998年はメンバーの結婚ラッシュでした。上述の西川さん、橋本さん、宮木さん。そして喜代美さん。私は喜代美さんに彼氏がいたことすら知らなかった……。
 結婚式では、式をはじめウエディングドレスもすべて自分で作るという隠れた特技を見せてくれました。アンサンブルでのヴィオラの役目もなかなか目立つことが少ないけれども、しっかりみんなの音を支えてくれています。
 もうすぐママになる喜代美さん。元気な赤ちゃんを産んでくださいね。
山口 知子(Shiruko YAMAGUCHI); チェロ
 しるちゃんは昨年の演奏会の頃、頭に“ストレスハゲ”をつくってしまいました(社会人1年生でかなり大変だったみたい…)。が、今はそれもすっかり治ってパーマをあてるほどの余裕がでてきたらしい。仕事の方も順調らしい(年末ぎりぎりまで忙しい毎日を送っていた。でもアルフィーのコンサートには行く)。
 また、しるちゃんといえば“ギョーザ”。鍋をするにも焼き肉をするにも“ギョーザ”がいるのだ。彼女と会うときはぜひとも“ギョーザ”を持参していただきたい。
 そんな彼女、今日はアンサンブルの土台となるチェロを担当する。そのたくましい姿を見てやってください。
“継続は力なり”
 そんな言葉がありますが、3回目を迎えて“継続には(相当の)力がいる”というのが実感です。メンバーそれぞれに生活があり、家族があり、仕事があり、続けていくことの大変さを痛感しています。そんな中でふと「何のために音楽をするのか?」と考えてしまいます。正直「やめてしまえば楽になるのに。」と思うこともあります。でも、やめることができないのは、好きだという以上に、音楽が自分を表現できる物の内の一つだからではないかと思います。
 現代は、自分を表現することが非常に難しい時代です。しかし、自分を表現し、少しでも誰かに伝えることができれば、それが“生きた”という証になるのではないでしょうか。この演奏会を通して“自分を表現する”と言うことが、少しでもみなさんに伝わり、それがまた少しずついろいろな形で伝われば、最初は数人でも多くの人に伝わるかもしれません。そうなれば、「世界も変わるかな?」なんて、大げさなことを考えたりして。
 冗談はともかく、本日の演奏を通して何か少しでも持って帰っていただけたら(持って帰るに値する物があればの話ですが)、非常に光栄です。
是非、またお会いしましょう。